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ブラック・テラー / 三堂マツリ 第4話 感想・紹介記事

2018年発表作品で(個人的に)最も面白い『ブラック・テラー』(三堂マツリ:著)の各話感想・紹介記事(ネタバレ含む)を書いていきます。

短いページ数の中で繰り広げられる絵本のようなファンタジックな絵柄と、あなたの予想を裏切るスリリングな展開が織りなす極上のショートストーリーを是非ともお楽しみください。

 

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紹介

夜の路地裏。りんごの芯を囓ろうとするネズミ。そのネズミは少女に掴まれ、そのまま食べられてしまう。 皮膚を、身を、骨を、そのまま嚙り尽くす。口から滴る血をペロリと舐めとりながら

 

「うーん・・・」「なんか違うなぁ・・・」

 

次の瞬間、彼女は警官に拳銃を突きつけられていた。

 

警官は銃を構えたまま目の前の少女に語りかける。野生動物を食べる彼女は近所で噂となり住民から苦情がきていた。

 

それを聞いた少女・チェルシーはあっけらかんと噂を否定する。自分は「動物殺し」でも「不審な女」でもない。そして興味があるのは動物の「内臓」だと言う。

 

怪訝そうな警官に向かって、今度はチェルシーが問いかける。

 

「お巡りさんは 主体性を重んじる人をどう思う?」

 

チェルシーが幼い頃、彼女の父親は娘の主体性を重んじる人間だった。彼は彼女に何でも自分で選ばせた。

彼女が 着る服や 座るイス それから 食べるものも

 

その中にあった彼女の大好物。覚えているのはグロテスクな見た目と噎せ返るような悪臭。

 

多分アレは何かの内蔵だった

 

チェルシーは今でもかつて食べた大好物のアレを探し求めている。それは犬でも猫でも鳥でも蛇でもカエルでもネズミでもなかった。

 

チェルシーの話を聞いた警官は慌てて彼女の腕を掴むと、ある所へ連れて行く。

 

「何?どこに?警察署?」

 

「違うッ 本官の家だ!」

 

チェルシーは警官の部屋でソファに座っている。ソファにはツギハギ、壁には所狭しと貼られた手配書、床にダンベル。不要な物は無いシンプルな部屋。

 

不思議そうなチェルシーに有無を言わせず、警官は慣れない手つきで調理を始める。

「日頃きちんとした食事を摂らないから そういう偏った思考になるんだ」

 

そう話している内に警官の手料理が完成する。それはおよそ料理と呼べるものではなかった。

 

絶句するチェルシーをよそに渾身の手料理を勧める警官。見てくれは悪いがいかに栄養豊富であるかを語りだす。その言葉を遮るように彼女は呟く。

 

「これだ」

 

「え・・・」

 

「このグロテスクな見た目 噎せ返るような悪臭・・・」

「絶対にこれ!!」

 

チェルシーの目の前の皿に盛られているのは、彼女が探し求めていた"アレ"。驚く警官をよそに皿まで食べかねない勢いで貪る。

 

「そういえば父も料理が大の苦手って言ってた気がする」

「それでも頑張って作ったソレを私は喜んで食べてたんだ」

「私が食べてたのは 父の愛だった!」

 

料理を綺麗に平らげたチェルシーはおかわりを求めるが、警官は強く拒否する。

 

せっかくの手料理をグロテスクだの悪臭だのと言われて警官の目には涙が浮かぶ。

褒めているつもりなのに喜ばない警官の態度にキョトンとするチェルシー

 

「ねェ 明日も食べに来ていい?」

 

「絶対に 嫌だ!!」

 

感想

一見純粋サイコパスプラッタが展開されると思いきや、ハートフルコメディに収まった第4話。いや、まぁ、冒頭からネズミ食べられてるんですけどね。

 

というわけで冒頭のネズミが食べられるシーン、カメラ(?)が口の中にありネズミの顔を撮るというアングル。食べられる直前のネズミの表情がなんとも言えない味わいでたまりません。

 

警官(後の話でジェシーと呼ばれる)が身につけているブレイシーズ(サスペンダー)は左側の紐だけダイヤ柄。しかも帽子の帯とお揃い。なんだそりゃ、オシャレすぎでしょう。趣味ですか?制服ですか?僕にも一本くれませんか?

 

警官に銃を向けられて体を伏せるチェルシー。なんかやけに色っぽい。ギザ歯もとてもキュート。ところどころ、引きの絵で目が点になるのも良いですね。

 

内蔵の話をするシーンで食べられた動物の示唆としてのぬいぐるみ。後のシーンで警官の部屋のソファもツギハギがあって繋がりが連想される。過去回想のシーンでは綺麗な服やイスが出てくるので、余計に対比が目立ちます。

 

いま読み返しながら気付いたのですが、チェルシーが連れられるシーンの後ろにある看板って3話のアレですかね?うーむ、こんな所に小ネタを配するとはニクいですね。

 

警官の部屋は上品では無いけど片付いており、几帳面で真面目な性格が伺えます。部屋にあるのもダンベルやボディビル雑誌で食事も栄養価を最重視したもの。とてもストイックな人物のよう。

テレビの上にあるトロフィーは仕事で表彰されたもの?ボディビルでの表彰?

 

床のカーペットは白黒のストライプ、キッチンカウンターには白黒チェックの飾り。白黒ダイヤ柄のブレイシーズなど、作品全体のデザインに統一感があります。

その割にチューリップ柄のエプロンとは何事だ。いつもそれ着て料理してるのかね。

 

終わりに

今回は「食」をテーマにしたストーリーでした。

私たち人間にとって食べることは切っても切れない当たり前の行為。そんな誰にでも当てはまる日常に、動物食だの内臓だの、グロテスクだの悪臭だのといった「普通ではないもの」が入り込むことはとても不快感を催します。

 

つまり第4話の根底に感じ取れるのは「常識・普遍への挑戦」です(こじつけ)。

 

とはいえ歴史文化慣習によって常識など移ろうもの。「食べる」という総体は万人に共通でも、個々人の好みは千差万別。そもそも私が住む長野県は悪名高い昆虫食の総本山ですからね、昆虫は栄養価が高いんだぞう。

 

話を戻すと。結局この回では終始「美味しそうな料理」は出てきませんが、それでもチェルシーは"料理"に満足しハッピーエンドを迎えました。客観的にはマトモとはいえない父や警官の料理も、彼女の為にという情と高い栄養価によって何物にも代えがたい"アレ"になったのです。

 

私はこの『ブラック・テラー』という作品全体に対して「多様性の尊重」というキーワードを感じています。他の話は突拍子もない状況を背景に物語が進みますが、今回はいつもより身近に感じられる話だったのではないでしょうか。

 

 

それでは次回も、なにとぞよしなに。

 

ブラック・テラー (バンブーコミックス タタン)

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