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ブラック・テラー / 三堂マツリ 第9話 感想・紹介記事

2018年発表作品で(個人的に)最も面白い『ブラック・テラー』(三堂マツリ:著)の各話感想・紹介記事(ネタバレ含む)を書いていきます。

短いページ数の中で繰り広げられる絵本のようなファンタジックな絵柄と、あなたの予想を裏切るスリリングな展開が織りなす極上のショートストーリーを是非ともお楽しみください。

 

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紹介

 

クリーピー・サイドの郵便局で局員が品物の仕分けをしていると、奇妙な手紙が見つかった。切手は貼られているし封もされている。しかし住所が曲者で、脱字だらけで差出人を判別するのも一苦労であった。この手紙を目にした男性局員は差出人の住所が自宅の近所だと気が付き、直接本人を訪ねてみる事にした。

 

局員は差出人の家へと辿り着いた。一見なんの変哲もない建物なのだが、所々が奇妙である。なにかが足りないのだ。

【玄関にはドアノッカーが無い】【壁に掛けられた絵は一部が塗りつぶされている】【ピアノの鍵盤が一つだけ抜けている】【階段の手すりの足が一本だけ少ない】【飼われているネズミの尻尾が・・・

 

「誰?」

局員が振り向くと家の主がいた。

 

局員ザカリーは勝手に入った事を詫びたが家の主ピーターは気にもしていない様子である。それどころかお茶を淹れると言い出し、ザカリーは断りきれずに席へ腰を下ろした。

 

【差し出されたティーカップには取っ手がない】ザカリーは不備のある手紙をピーターに渡して脱字を直すように指摘する。それに対してピーターは

「だって その方がずっと良いだろ」と答えた。

 

 かの有名な”ミロのヴィーナス”は両腕が欠けているが故に、元の形がどうであったかという想像が膨らみ人々を魅了している。それこそが真の芸術であり、身の回りの様々な物にあえて空白を与えることで「想像の余地」を作る。それが彼の信条であった。

 

ピーターの熱弁を聴き、ザカリーはその考えを受け入れるまではいかないものの納得はできた。その時にふと頭をよぎったのは先程目にしたネズミのことであった。

 

「さっきケースに居たネズミ・・・」「生まれつきなのか?」「それとも」

「ちぎったのか 彼の尻尾を・・・!」

 

「ちぎるなんてとんでもない!」

 

「ハサミで切ったんだよ!」 

 

刹那、ザカリーは駆け出してネズミの入ったケースを抱えた。彼はピーターにこのままネズミを飼わせてはいけないと感じ、引き取ると言い放った。

しかしピーターはザカリーを阻止しようと銃を向ける。

 

ピーターは引き金を引いたが弾がザカリーに当たることはない。

銃は腔発を起こし弾はピーターの右目を真っ赤に染め上げた。この銃もまた彼の手で分解され、パーツを抜かれた”作品”であった。

 

ザカリーは医者を呼ぶために慌てて家を飛び出す。

残されたピーターは右目を片手で押さえながら、壁にもう片方の手を付いて呻き歩いた。その折、壁を触っていた手が鏡に触れ、彼はそこに目をやった。

 

衝撃が走った。いつもの見慣れた顔が映るはずのそれには、”空白の右目”があった。

ピーターは理解した。

 

「僕という作品が誕生したんだ!」

 

感想

先日、別のところで”ミロのビーナス”は腕が欠けていて~というくだりを見たばかりなので、とてもタイムリーなネタでした。そしてその要素を応用してホラーを造りあげる発想力に脱帽です。 

 

「芸術的」。「神秘的」とも言い換えられるこの言葉は作品が内包する”妖しさ”を糧としてより輝きを増します。この妖しさは時に怪しさとなり、関わる者の心の闇を増幅させます。

とはいえ、ピーターはただ単に自分が求める芸術を追求したに過ぎません。ザカリーはネズミの尾を切ることが許せませんでしたが、ピーターにとってネズミは作品であり、「生命を傷つけて玩んではいけない」という倫理の壁がそもそも存在しません。

果たして”芸術”が彼の倫理観を破壊したのか、それとも元から倫理観が欠如している彼が”芸術”を利用したのか。

 

終わりに

ふと考えてみると、このブラック・テラーという作品の主人公達には「倫理観の欠如」という言葉が一つのキーワードとなっているように思います。

当人にとっては理屈が通っていて、ただ成すべきことをしているだけ。しかし(読者を含む)大勢にとってそれは信じがたい行動として映る。

作者が展開する詭弁のような”理屈”を受け止め、受け入れ、抗う。それがこの作品の楽しみ方の一つなのかもしれません。

 

それでは次回も、なにとぞよしなに。

 

ブラック・テラー (バンブーコミックス タタン)

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