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#毎日古典 #孫子 その6 虚実編

 今回紹介する虚実編は具体的な手段が数多く紹介されており、戦術書として読み応えのあるチャプターです。

 さて、事前に虚と実について解説しておきましょう。虚とは中身が無いということであり、敵の戦意が低く準備が整っておらず指揮が行き届いていない状態を指します。実とは虚の逆で、すべてが充実しており戦闘準備が整っている状態です。

 この編では敵を虚の状態へ陥れる重要性と手法を述べており、事前に骨抜きにした敵であれば容易く打倒することができるというわけです。

 

 それでは以上を踏まえて、本編をお楽しみください。

  

孫子 (講談社学術文庫)

孫子 (講談社学術文庫)

 

 

 

 

虚実編

善く戦う者は人を致すも人に致されず

 

 戦場において兵数は戦力を測る指標の一つに過ぎません。優れた指揮官には敵を振り回して戦力を削ぐ技術が求められ、さらに自軍は振り回されず泰然自若として戦力が高い状態を維持させなければなりません。

 この項では敵を振り回す手段として5つの例を挙げています(ツイート参照)。これらは少数の部隊を用いての撹乱から大部隊を用いての陽動まで、あらゆる方法を駆使しなければなりません。

 肝心なのは好調な自軍の兵によって不調な敵兵と相対するというお膳立てをする事であり、この状況が整っていれば兵数差は大した意味を持ちません。また自軍が不調な状況にある時は極力交戦を避けるように努めなければなりません。

 

 ビジネスにおいても従業員のやる気が業績へ大いに影響するのは言うまでも有りません。接客で例えると、給与を始めとする待遇が充実していて、従業員同士のサポートが整っており、薦める商品が優れているという自負があれば、誰でも自信をもってお客様と向き合えるというもの。対して、競合他社の方が上記のような環境が優れていると分かってしまうと否応にもモチベーションは低下します。

 現実的には、コンプライアンスが重視される昨今において露骨な他社へのネガティブキャンペーンは行えませんので、自社の環境を改善し「致されず」を志向するのが妥当です。給与等の比較可能な面だけでなく他社にはない独自の利点なども創出し、常に社員を充実した状態に保つように心がけましょう。

 

進むも迎う可からざる者は其の虚を衝けばなり

 

 前項は敵兵が弱っている状態を作り出すという内容でしたが、この項は敵軍全体の脆弱性を攻撃するという意味合いがあります。ここで挙げた4つの例はいずれも大局的な視野や政治的判断力をもって相手の先を読む能力が求められ、指揮官の腕の見せ所と言っても過言ではないでしょう。 

 こうした戦略を遂行する為に重要なのは敵の意図を把握しつつ自らの意図を察知されないことです。いずれも裏をかいてこその作戦ですので、敵の様子をつぶさに観察し味方の状態を可能な限り秘匿することを心がけましょう。 

 

能く寡を以て衆を撃つ者は

 

 ここでは小さな兵力で強大な敵を打ち破るための原則を3つに分けて解説しています。まずは自軍の動向を秘匿する事。そのためには兵力をさらにいくつかの小部隊に分け、行軍が目立たないようにします。次に意図を秘匿する事。全ての部隊を完璧に隠匿することは不可能ですが、個々の行き先がバラバラであればかえって敵を混乱させることができます。そして最後に部隊を急速に集結させる事。それまでは少人数でバラバラだった部隊も、同時に集結すればそれなりの規模になります。これらの3つを遂行するためには入念な準備と高い統率力が必要です。

 さらにこうした戦術は敵に圧力をかける効果も見込めます。敵から見るとゲリラ的に出没する小部隊は不気味な存在であり、複数の拠点へ守備兵力を分散せざるを得ません。必然的に重要な拠点は防備が厚くなる一方で、防備が薄くなる拠点が出てきます。もし敵の内情を熟知していれば防備が薄くなるであろう拠点を推測することも可能であり、万が一防備が厚ければ攻撃を避けて別の地点を目指しましょう。 

 いずれにせよ勝敗は兵数差だけで決まるものではなく、いかに主導権を握るかという点が重要になってくるのです。

 

 ビジネスでも企業が既存の分野へ新規参入する際にはゲリラ的な活動が有効となります。その分野のトップシェアを誇る企業に対してスタンダードな商品で正攻法をかけるのは得策ではなく、ニッチで一部のユーザー層向けに特化した商品をヒットさせなければなりません。

 そのためにはまず発売まで極力情報を隠すことで、大手が先んじて量産し市場を確保するという事態を防げます。次に狙うユーザー層を狭く絞ること。一般層へ向けた商品は大手にとっても狙い目であり、すぐに真似をされて物量で押し負けてしまいます。そこであえて対象を狭く絞ることで、大手がわざわざ参入するメリットを小さくできます。

 このように既存の分野で大手が幅を利かせているとしても、こちらが主導権を握ることができる状況を生み出すことによって成果を上げることができます。

 

之を蹟けて動静の理を知り

 

 ここでは敵の弱点となる虚の部分を炙りだす方法を説いています。まずは敵の動向を探り行動パターンを割り出す。天候や地形、時間帯によって斥候の有無や宿営方法など行軍の手法や速度のクセが現れるので、それらを今後の行動を予測する材料とします。次に敵を守勢に回らせて戦力配置を明らかにする。こちらが攻撃側なら敵は重要拠点に戦力を集中させるのが一般的です。もし自軍が防衛側なら敢えて一度拠点を放棄し、敵が占拠して布陣を敷いた時点で反撃するという手法を採ります。

 続いて相手の立場での利害損失を推測する。敵の兵糧が少ないのであれば短期決戦は避け、援軍を待っているのであれば早々に決着を付けるというように、敵の嫌がる手法で攻撃します。最後に牽制をかけて戦力を割り出す。上記の3つはあくまで予測の域を出ないので、確信を持って判断するためには小部隊での牽制が有効となります。

 このようにして敵の実情を丸裸にできれば自ずと虚が見えてきます。わざわざ戦力が整っている実を攻めるのではなく、虚を重点的に攻撃して着実に敵の兵力を削ることを心がけましょう。 

 

兵を形すの極みは无形に至る

 

 孫子の中では常々、自軍の状態を隠匿して敵の実情をを暴き出すことの重要性を説いています。この教えを基にすれば、こちらの陣形が丸見えであるために敵に迎撃する猶予を与えてしまう事態は極力避けて、直前までその様子を固定しないことで対処を遅らせることが最善手であると言えます。 

 これを実現するのはもちろん生半可なことではなく、指揮官が臨機応変に最適な指示を出すことと、作戦や合図を全軍に徹底して即座に対応できるよう訓練することが求められます。しかし無形の兵法を会得できれば、敵にとってはどのような攻撃を繰り出してくるのかわからず一方的に勝利することもできます。

 敵にとっては勝敗が決する最終的な陣形と作戦(包囲・突破etc)しか認識できず変幻自在に見えますが、その実態は無形というたった一つの作戦に過ぎません。いかに得意な戦法であっても同じ事を繰り返していると次第に対策を講じられてしまいますので、その正体を見破られない無形こそが兵法の極致にあるのです。

 

兵の形は水に象る

 

 実戦は不確定要素を多分に含むので事、前に机上で想定した通りに進むことは絶対にありません。兵の動きは水が高所から低地へ地形に沿って流れるように常に流動的であり、事前の予定を頑なに実行しようとするのではなく流れに任せて柔軟に対応する必要があります。そのため指揮官は戦闘中も常に緊張感を持った熟考と決断を求められます。

 この手法が身に付けば不測の事態にも対処できる上、敵にとっては次の動きが予測しにくくなります。これは前項の”無形”にも通ずる考え方であり、逆に柔軟さを失った硬直的な思考は敵に読まれるところとなり、いずれ手痛い敗北に繋がります。

  

終わりに

 今回は具体的な戦略的手法がいくつも紹介されました。上手くビジネス向けの内容に落とし込むことができず不甲斐無い限り。

 

  ところで。私は最近ボードゲームにハマっているのですが、この辺りの内容は上手く活用すればより楽しめそうだなと、1人ニヤついておりました。実を以て虚を討つ、是非とも実践していきたいものですね。

 

それでは次回も、なにとぞよしなに

孫子 (講談社学術文庫)

孫子 (講談社学術文庫)