前回は私の実力不足が露呈し、ビジネス向け例文が思い浮かばないという惨状を呈してしまいました。
とはいえ!そこに完璧主義を掲げて更新が滞ってしまっては本末転倒もいいところですので、この編のタイトル通り勢いを以て更新してまいる所存でございます。今後もビジネス例文が思い浮かばない項目は思い切ってスルーしてしまいますが、ご了承くださいませ。
勢編
衆を治むること寡を治むるが如く
#毎日古典 #孫子
— 一騎 (@aerodyne0739) 2019年5月7日
衆を治むること寡を治むるが如く
大兵力を統率しながら小兵力のように整然と運用する
大兵力を戦闘させながら小兵力のように整然と統制する
全軍が敵のあらゆる出方に対応する
自軍が攻撃する時に容易に撃破する
兵数が互角でも上記が可能か否かで戦闘力には大きな差が現れる。
この項では衝突の際に戦果を向上させる4つのポイントを紹介しています。まずは大兵力を整然と運用すること。効率的な部隊編成を行うことで、指揮官が最低限の指示をするだけでも隅々まで行き渡らせることができます。次に戦闘時に於いても大兵力を整然と統制すること。いかに態勢が有利で策謀が張り巡らされていても、軍勢が指示通りに動かないのであればお話になりません。そこで各種合図などの伝達手段を徹底することで作戦のタイムラグを減らせます。
続いて全軍が敵のあらゆる出方に対応すること。増援や伏兵など敵は様々な戦法を繰り出してきますが、それらに冷静に対処すれば大敗を喫することは避けられます。最後に攻撃の際には容易に撃破すること。敵の弱点を徹底的に突いて、損失を少なくしつつ確実に戦果を挙げることを目指しましょう。
以上の4つのポイントを心がけることによって、確実性が高く利益の大きな勝利を積み重ねることができるのです。
戦いは正を以て合い奇を以て勝つ
#毎日古典 #孫子
— 一騎 (@aerodyne0739) 2019年5月8日
戦いは正を以て合い奇を以て勝つ
正攻法での対峙と奇策での突破の組み合わせで敵を破る。
この奇策とは伏兵や援軍で"敵の裏をかく"という意味で天才的な発想は不要。
相手が奇に適切に対処すると戦況は互角(正対)となり再び奇が求められる。
戦闘は正と奇の循環を制した者が勝つ。
戦闘は基本的に、視界の開けた野戦場で両軍が睨み合う状態で始まるのが主流です。このような互いに相手の先鋒を確認でき、ある程度の布陣も把握している状態を正対と呼びます。このまま両軍が工夫も無く衝突すれば単純に兵数の多い方が勝つでしょうが、勝ったとしても多大な損害を生じます。
そこで必要となるのが奇の軍略。これはかならずしもド派手で神懸かり的な作戦を実行するという意味ではありません。撤退するフリをしつつ伏兵で包囲するとか、歩兵の後方から騎馬隊を突入させるとか、そういった「敵の裏をかく行動」を取れれば十分なのです。
もし敵が対応できなければその勢いのまま畳み掛けて勝敗を決することができますが、問題は敵が態勢を整えて反撃してきた場合。この時、両軍はお互いの戦術と状況を把握しているので最初の正対の状態に戻ります。となれば新たに奇法を駆使して有利な状況を作り出すことが求められます。
こうして正と奇を繰り返すことで両軍の様相は千変万化します。この循環をスムーズに行い主導権を握ることで、優勢方は損少なく勝つことができ、劣勢方も兵数の差を覆すことが可能となります。自軍のペースに持ち込むことが最も大事な要素なのです。
ビジネスにおいても競合他社とは常に正対した戦闘状態にあり、新商品を発売したり価格引き下げなどを行うことが奇策と言えます。こういった策は導入当初こそ他社との差を付けられますが、いずれ相手も似たような手法を取ることで優位が縮まります。このようにビジネスの場面も常に正と奇が循環しており、それが経済の停滞を防ぎます。
その中で前進する意欲や技術が衰えると他社との差は開くばかりとなり、すぐに追いつけなくなってしまいますので毎日の進歩が欠かせません。
善く戦う者は其の勢は険にして
#毎日古典 #孫子
— 一騎 (@aerodyne0739) 2019年5月9日
善く戦う者は其の勢は険にして
石が浮き上がる程に水が激しく流れる事を勢と呼び、猛禽が急降下し一撃で獲物を捕らえる事を節と呼ぶ。
戦闘も同じく、勢いを限度いっぱいまで蓄えて一瞬の節目で放出するのが最善の方法。
逐次投入による長期戦より一気呵成の短期戦が好ましい。
ここでは章のテーマである”勢”について激しい水の流れに例えています。また勢が最も効果的に発揮されるタイミングを”節”と呼びます。戦闘においては兵の一人一人が心身ともに充足しており士気が高い状態が”勢”であり、そんな兵士たちが一斉に敵へ襲い掛かる瞬間が節です。
この勢と節を尊重した戦い方をすれば自ずと短期決戦となり、軽んずれば逐次投入による長期戦となります。逐次投入では、戦場に到着した増援部隊が休息も無く戦闘に突入することとなり本来の実力を発揮できません。また小兵力では敵を圧倒できずに拮抗するか各個撃破されるため、効率よく戦果を挙げることもできません。
よって指揮官は自軍の勢を極限まで高め(暴発するのを防ぎ)節目において一気に強襲することを志さなければなりません。
ビジネスにおいて管理職・マネージャの職務の本質は、この”勢”を作り上げることにあります。言い換えれば社員が肉体的に健康でありモチベーションが高い状態にあるということ。勿論四六時中臨戦態勢と言うわけにはいきませんから、業務の繁閑を考慮して重要でない場面では休養させることも大切です。
よほどのことが無い限り、年柄年中で120%の稼働率が必要とされることはありません。そんな中で常に全力を出させるというのは長期的に見れば効率が悪く部下も疲弊します。普段から業務の緩急をコントロールしつつ、ここぞという場面ではチームを結束させて最大限のパフォーマンスを発揮させられる管理能力が求められます。
紛紛紜紜闘乱するも乱る可からず
#毎日古典 #孫子
— 一騎 (@aerodyne0739) 2019年5月12日
紛紛紜紜闘乱するも乱る可からず
部署割りと編成が優れていれば乱戦の中でも隊列は安定する
戦闘に突入する勢いが強ければ兵は勇敢に闘う
有利な態勢を築ければ戦力を強く維持できる
指揮官は治・勇・強を保持し乱・怯・弱を未然に防ぐ事に努める。兵数が多くとも後者の戦力は低い。
いかに整然とした布陣を敷いたとしても、ひとたび戦闘が始まれば隊列は乱れ、怯える兵が逃げ出し、兵数に見合わない戦闘力しか発揮できません。このような乱・怯・弱に陥ることを防ぎ治・勇・強の状態をキープするには3つのポイントがあります。
一つ目は部署割りと編成を徹底する事。小隊・中隊・大隊の区別ができており、それぞれの号令や合図が浸透していれば怒号渦巻く戦場にあっても自らの立ち位置や役割を忘れることはありません。二つ目は強い勢いを以て戦闘に突入すること。周囲の士気が高ければ勇敢さは相乗効果によって増幅し、一人一人が勝利の確信を持って戦うことができます。三つ目は有利な態勢を築くこと。いかに兵数が多くても無理のある態勢では実力を発揮できません。敵に対して有利な位置取りを確保できれば士気も上がり、兵数の多寡を覆す事すら可能です。
こうしたポイントを丁寧に実行することが指揮官の責任であり誉れでもあります。手法がトップダウンであれボトムアップであれ、全軍を結束させ高いモチベーションを保って戦いに臨める環境を整えることが肝要です。
ビジネスに関して、ここでは3つのポイントを製造工場で例えてみます。
部署割りができているということ。製造業などでは突発的な需要の高まりに対して工員をフル動員して生産に臨むという場面が想定されます。この際に指揮系統がバラバラであると、本来とは別の業務に駆り出された工員がミスをしたり事故を起こしたりして大幅な損失を被る可能性があります。忙しい時こそ業務分担を徹底し、引継ぎが必要であれば丁寧に実施することで効率的な生産が実現できます。
次に勢いをもって取り組むということ。人間は忙しい時ほどやる気が出るタイプと手を抜こうとするタイプに分かれ、パレートの法則に照らし合わせると前者:後者の割合は2:8程度になります。この時マネージャーが後者に対して直接注意したり作業を代替したり、2割の前者に
善く敵を動かす者は
#毎日古典 #孫子
— 一騎 (@aerodyne0739) 2019年5月13日
善く敵を動かす者は
戦闘の要となる"勢"を整えるには時間がかかる上、その様子を悟られてはならない。
敵にわざと隙を見せたり利益をチラつかせて上手に誘い出し、万全の態勢で迎え撃つ事を心がけるべし。
上記のような”勢”は発揮できれば強力ですが、いつでも無条件に望める物ではありません。兵士に食事と休養を与えて健康管理を怠らず、迎え撃つための装備や土塁を整備し、敵を陥れる策謀を練るといった準備期間が必要です。そしてこれらは敵にその様子を悟られてはいけませんので、戦場に先着しなければなりません。
とはいえ常に自軍の都合の良い土俵で戦えるわけではありません。しかし優れた指揮官は細工を行い敵を自在に動かしこの時間を稼ぐことができます。例えば「わざと味方の拠点を放棄して敵に占領させて留まらせる」「敵の要所に別働隊を派遣して主戦場への到着を遅れさせる」といったようにです。
こうした手法を用いて敵をこちらが望む場所や時間に誘き出すことができれば、それまで万全に準備をしていて自軍によって一斉に攻撃することができます。第4編にある通り、戦闘は始まる前の準備に真髄が秘められています。
善く戦う者は之れを勢に求め
#毎日古典 #孫子
— 一騎 (@aerodyne0739) 2019年5月15日
善く戦う者は之れを勢に求め
作戦の成否を左右するのは個々人の勇気ではなく全体の勢い。
自軍の戦意が満ちており敵軍を罠に誘い込む状況にあれば、その勢いは転石のように止めようがない。
指揮官は兵の士気や練度の低さを嘆くのではなく、彼らでさえも勇猛に戦える環境を整える。
第5編の締めは再度”勢”の重要性を説いています。自軍の勢いが高まっている時、最早それは兵の群体ではなく一個の巨大な生物のように機能します。その中では個人の練度や士気といったものは均され、全体が纏まっているかどうかという点が重視されます。
指揮官の役割は兵の一人一人に対して檄を飛ばして戦わせることではなく、彼らが自然と前進するような状況を整えることにあります。もちろん個々人の能力や意識が高いに越したことはありませんが、それはあくまで補助的な要素であり、それを頼みにして統率への努力を怠ってはいけません。
ビジネスにおいて、この項は経営者や管理職の基本的な心構えと言ってもよいでしょう。事業規模が大きくなるにつれて従業員は増え個性が多種多様になっていきますが、彼ら一人一人に対して直接指導や激励を行うことは不可能です。
そこで上に立つ人間は各々が自発的に行動するような環境やシステムを整える事に注力する必要があります。一部の優秀な人材の努力に頼るのではなく、全体的なボトムアップを図るような施策を常々考えることが経営の本質と言えるでしょう。
終わりに
結局、書き始めてからかなり時間が経ってしまいました。ところどころ至らない点もございますが、何とか最後まで続けていきますので暖かく見守ってくださいますよう。
それでは次回も、なにとぞよしなに