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#毎日古典 #孫子 その3 謀攻編

 孫子のまとめも3回目となりました。今回は本編の第三章にあたる謀攻編を紹介いたします。単純な戦略指南書として読んでも十分に面白いのですが、身の回りの出来事と絡めて読み進めると自分の中にスッと入ってくる実感があります。

 

 2,500年読み継がれる孫子の世界をご堪能ください。

 

孫子 (講談社学術文庫)

孫子 (講談社学術文庫)

 

 

 

 

謀攻編

戦わずして人の兵を屈する

 

 そもそも戦争は権利や資源を相手から奪い取る事が目的であり武力衝突は手段の一つでしかありません。敵を屈服させたとしても獲得したものが少なければ、その戦争自体が無意味だったと言わざるを得ません。ですので戦争における最上の手段は戦わずに勝つことであり、将来的に自国のものとなる敵国を破壊して勝利するのは好ましくありません。

 歴史をエンターテインメントとして見るなら派手な戦いが人気を集めますが、自国の進退を預けられている策略家の理想は「戦わずして勝つ」ことです。

 

 ビジネスでは競合他社をどのように圧倒するかという考え方があります。安易に考えがちなのは価格引き下げによる競争ですが、これは粗利益の減少や市場価格の下落を招き、他社が撤退したとしても回復するまで時間がかかります。

 一方で新商品の開発やブランディング戦略の実施など価格以外の要素を伸ばして他社と競合せずに勝利した場合、従来の利益率を保ったままに顧客を定着させることができます。わざわざライバル社と真っ向対決するのではなく、他社が及ばないポイントで間接的な勝利を積み重ねることで最大限の利益獲得を目指すべきなのです。

 

上兵は謀を伐つ

 

 敵の挙兵を未然に挫くことができれば余計な武力衝突を避けながら目的を達成することができます。これが駄目なら敵国の同盟関係にヒビを入れることで、身動きを封じて大胆な行動を抑えられます。ついに戦闘となった場合は必要物資の少ない野戦で短期決着を付けるべきです。時間と労力と物資を消耗しながら敵城を攻めるのは最後の手段。

 優劣の判断基準はいかに労力を少なくしつつ目的を達成できるかという点にあります。敵との衝突にならなければ兵士や装備を失うことはありません。同盟関係を崩せば後ろ盾を失うのでこちらへ全兵力を割けず弱体化します。攻城戦は敵の頑強な防御を破る為に様々な装備が必要となりますが、野戦であれば大掛かりな準備は省けます。

 あくまで戦闘は手段であり目的の達成が最優先であるという事を念頭に置けば、指揮官が労力の少ない方法を選ぶのは至極当然と言えます。

 

 ビジネスでは競合他社の参入を防ぐという場面が想定できます。こちらが先に業界への影響力が大きいユーザを抑えてしまえば、わざわざ不利を承知で参入してこようとする他社を減らすことができます。もしも他社が同業に参入してきたら、他社が抱えるユーザを積極的に攻略して相手の土台を揺らがせましょう。

 他社の拡大を止められないのであれば極力早い段階で正面衝突をしてそれ以上シェアを拡大させないようにしましょう。万が一シェアを逆転されてしまうとこちらが身を切ったキャンペーンを実施しなくてはならず、巻き返しは非常に困難になります。

 

小敵の堅なるは大敵の虜なり

 

 彼我の戦力が正確に把握できているのであれば、それ相応の戦術を選ぶことができます。もし10倍の兵力があるならば一気に包囲することでこちらの損害を減らしつつ勝利できます。5倍では方位はできませんが正面衝突してもまず負けることはありません。兵力が2倍なら敵を分断し各個撃破することで数的優位を拡げられます。

 兵力が互角の時は地形や策を駆使し、より勢いのある方が勝つでしょう。敵より劣勢では勝てる可能性は極めて低いので、足留めしつつ撤退するべきです。圧倒的に大差のある敵を発見した場合は退却戦すら困難なので見つからないように身を潜めるしかありません。

 指揮官は兵力差を把握した上で臨機応変に軍の運用を選ばなければいけません。もしこちらの戦力が少ないにもかかわらず頑強な抵抗を行おうとしても、敵に包囲されてしまえば傷一つ付けられず捕えられてしまいます。これは敵にとって最高の結果をみすみす献上することに他ならず、何でも意地になって戦えばいいという訳ではありません。

 

 ビジネスでは商談の優位差を客観的に判断するのは難しいですが、大きく3つの方針に分けることができます。まずこちらが有利な場合は過剰な特典や値引きを行う必要はなく、相手が特別なアクションを起こしてこない内はユーザが求めている事を真摯に実行すれば勝てます。商談経過が互角の場合はあらゆる手段を用いてがむしゃらに受注を獲得しましょう。

 そして最後に、こちらが不利な場合は早い段階で切上げましょう。早い段階で不利だという事がわかっているなら、こちらの手の内を他社に見せる前に撤退する方が賢明です。商談を落とした上で競合相手に弱みまで握られてしまうと、次回以降の商談でも弱点を突かれる恐れがあります。

 意地になって何でもかんでも飛び込むのではなく、長期的な視点から勝てる商談を確実に取りにいきましょう。

 

将とは国の補なり

 

 指揮官は君主の両腕となって働く補佐役です。国全体の方向性を決める君主と現地で細かい指示を出す指揮官の意志疎通ができていれば国は良い方向へ、食い違っていると悪い方向へ自ずと進んでいきます。

 悪い方向へ進む例の一つ目は君主が過度に現場へ干渉する事。君主が抽象的な激励を行う程度ならともかく具体的な進退の指揮まで介入すると、兵卒は君主と指揮官のどちらに従えば良いかわからなくなります。このような事例は君主は指揮官を信頼し現場での全権を委任することで防げます。

 二つ目の例は指揮官が君主へ干渉する事。指揮官が与えられているのはあくまで現場での権限に過ぎず、強大な軍事力を後ろ盾に君主の政策方針に圧力を加えるのはクーデターに他なりません。このような事例も日々の意志疎通を密にし強い関係性を築いていれば防ぐことができます。

 兎に角、平時から意思疎通を図りそれぞれの領分をわきまえた行動を心がけることが大事なのです。

 

 ビジネスでは経営者と管理職の関係性に当てはめることができます。一般的なサラリーマンは直属の上司に指示を仰ぎながら働いていますが、もし突然社長が来て「今すぐその業務を中断しろ」と迫られたらどうなるでしょう。当然ながら経営者は社員一人一人の業務を全て把握しているわけではなく、その補佐をするために多くの管理職が繋ぎ役を担っているのです。経営者が指示を出すのは直下の管理職までにしておき、現場での作業については個々の管理職を信頼しなければいけません。

 逆に現場の一管理職が独断で経営に大きく関わる事業に手を出す事も許されません。個人の主観的なプランでは「会社のためになる」と確信していても客観的な判断を通すと方向性が間違っているという例は往々にしてあります。企業の最終的な責任を負うのは経営者ですので、現地での裁量権を越えた判断は経営者に指示を仰ぎましょう。

 

彼れを知り己を知らば百戦して危うからず

 

 戦場の指揮官は常に決断が求められます。戦況や兵力差、勢いを鑑みて今戦うべきか、衝突を避けるべきかという分別をつけられるか。こちらが相手より多勢か無勢か見極め、それに応じた戦術や兵の運用法を熟知しているか。指揮官と兵卒の意思統一ができており指揮通りに動けるか。敵を迎え撃つ態勢や計略を仕組み、絶好の機会を待ち受ける状態が整っているか。指揮官が全権を委任するに値する優秀な者で、君主は指揮官に全幅の信頼をおいて任せているか。

 上に挙げた5つの条件を忠実に守れば絶対的な危機に陥ることはありません。ここで重要なのは”必ず勝てる”とは述べていない点。いざ戦いが始まってしまうと誤算や偶然から自軍の有利が覆される可能性はいくらでも考えられます。その時に冷静さを失って無謀な戦いに挑んでしまうと大敗を喫するか、勝てても自軍が大損害を受けるのは避けられません。

 一方で状況に応じた判断ができれば自軍の損害を抑えて危うげなく勝つか、深手を負う前に戦線から離脱することができます。勝敗はともかく、立ち直れなくなるまで壊滅的な打撃を受けることはありません。これが”危うからず”の真意なのです。

 

 ビジネスでもリーダーは常に決断を迫られます。事業の売上計画や予算を承認しあとは個々に任せる、というわけにはいきません。状況は刻一刻と変化し、リーダーも臨機応変に対応する必要があります。ビジネスでいう危険とは採算が取れない事を指しますので、売上計画は達成したけど費用が掛かりすぎて赤字の方が大きかった、競合他社に敗れてシェアを失ったという場面は避けたいところです(厳密には赤字での売上達成が一概に悪いとも言えませんが)。

 実際には敵を知ること以上に、自社内の状況を正確に見極めることも難しいですが、極力客観的に状況を見て利益を伸ばせるように心がけましょう。

 

終わりに

 第三回のまとめが終わりました。原文の意訳はまだいいのですが、ビジネス応用が非常に頭を悩ませてくれます。私自身まだ若造ですし経験不足は重々承知していますが、できる限り実体験に近い例をだしてイメージしやすくなるように心がけています。 

 

それでは次回も、なにとぞよしなに

孫子 (講談社学術文庫)

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