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#毎日古典 #孫子 その2 作戦編

 4月から始めた新企画、 #毎日古典 のまとめ第2回です。

 

 本当は前回で計編から作戦編までをまとめるつもりだったのですが、いささか文章量が多くなってしまったので分割する運びとなりました。しかし考えようによっては本編の章ごとに分けた方が読みやすいような気もしますね。

 

 それでは早速本編をどうぞ。

 

孫子 (講談社学術文庫)

孫子 (講談社学術文庫)

 

 

 

 

作戦編

兵は拙速を聞くも未だ巧久を見ざるなり

 

 古代中国の戦争は数十万人という単位でのぶつかり合いが一般的でした(ちなみに日本の戦国時代はせいぜい数万人規模、大坂の陣でも豊臣徳川を合わせて30万人)。それだけの兵員の装備や食料を賄うためには国費に莫大な負担がかかります。

 そのため行き当たりばったりで膠着状態に突入すると経費が日々垂れ流しにされるばかりで何も得る物がありません。すると常に緊張状態にある兵士は疲弊し、後方の待機部隊は気が緩むので全軍の士気が低下します。また戦線を維持するための物資も窮乏し、国内の民衆の経済にも大きな打撃を与えます。

 こうして次第に全体の国力が低下すると、中立の立場にあった第三者が漁夫の利を得ようと介入してくることすら想定されます。このような事態を避けるための最善の方法は戦闘を一日でも早く終わらせること。過去、多少の無理を押しての短期決戦が国の行く末を良い方向へ導いたという話は聞いても、完璧な持久戦が大いに評価されたという例は見たことがありません。

 

 ビジネスでもセールやキャンペーンは期間限定が基本であり、慢性的に値下げ戦略を続けても全体的な粗利益が改善することはありません。またキャンペーン用の人員の配置や広告宣伝費などといった経費も、区切りを決めておかないと垂れ流し続けになる可能性もあります。

 そのためアクションを起こす際には常にゴールを設定し、そこから逆算しながら計画を立てる必要があります。万が一予定を超過してしまう場合は損益分岐点を意識し、全体を通して損が出ないラインで切上げる判断も重要になるでしょう。

 

智将は務めて敵に食む

 

 大軍を遠征させる場合、人馬の食料や装備、野営機材など多くの物資が必要となります。これは下記の段階を経て国内景気に打撃を与えます。

 「後衛から前線へ物資を補給する輸送費が発生する」→「輸送費を抑えるために前線近辺で軍隊が物資を調達する」→「軍隊の買い占めに伴う民間流通量が減少する」→「流通量の減少に乗じて平時より価格が吊上げられる」→「高騰した物資を税金からなる軍費で買い上げる」→「財政が枯渇する」→「戦線維持と財政立て直しのために増税が行われる」→「民衆の可処分所得が減少する」

 このように遠征にかかる物資の補給を自国で賄おうとすると国内の経済が疲弊し、例え遠征が成功しても以前より国力が下がってしまう場合があります。これを避けるには可能な限り遠征を短期間で決着させることに加えて、物資を敵地で調達することが求められます。

 占領した敵地で軍需物資を調達できれば余計な輸送費もかからず国内の流通に与える影響も軽微で済みます。以上から敵地で獲得した物資は自国内で手配した物資の何倍もの価値を有し、戦闘だけでなく軍隊の経営を考えるのも指揮官の重要な役割と言えるのです。

 

 ビジネスでは競合他社が有利なエリアへの新規出店を例に挙げることができます。他社が強いエリアへの出店が成功し他社の店舗が撤退した場合、そこで働いていた店員を雇ってしまうのです。元は強力なライバルでしたが、こちらへ抱え込んでしまえば豊富な知識を備えた即戦力となってくれます。

 同じエリアへさらに出店する際もわざわざ別のエリアから人員を補充する必要がなく、スピーディーな店舗展開が可能となります。経営資源のすべてを自己調達する必要はなく、再利用できるものはとことん利用することが大切です。

 

敵の貨を取るものは利なり

 

 戦いは怒りに任せて敵兵を倒すだけが全てではありません。敵が使う装備や軍需品、蓄えていた食糧といった物資は可能な限り再利用する必要があります。前項でも述べた通り、敵地において物資を現地調達するのは戦線を維持するためにはとても重要です。

 もしどこかの部隊が敵の物資の奪取に成功した時は、これの権利を実行部隊に与えるのが効果的です。自軍の費用を用いて後衛から補給された物資は全部隊へ平等に分配するべきですが、敵地で現地調達された物資は実行部隊の努力の賜物ですので徴収・再分配は適しません。

 努力が報われるという前例があるからこそ各自は奮闘し、それを間近で見ることで別の部隊にも同様の動きが伝播します。この動きを繰り返すことで軍は進むほどに強化され、自国の疲弊も抑えられるのです。

 

 ビジネスでは信賞必罰の人事・報酬制度を導入するという例を挙げることができます。もし会社のためにと努力して実績を残しても、そうではない同僚と待遇が一緒ではやる気が起きません。その人の良い所はしっかりと評価・還元すれば本人のやる気は自ずと湧いてきます。個々の部署の評価者がしっかりと機能していなければ、モチベーションは上がらずゆっくりと確実に組織力は衰えていくでしょう。

 

兵は勝つを貴びて久しきを貴ばず

 

 戦争には莫大な経費がかかり、その期間が延びるほど損失は大きくなっていきます。こうした戦費の増大は増税という形で国民にのしかかり国内経済を疲弊させます。また金銭だけでなく、戦争は長引くほどに人命も失われていくため労働力も減少します。

 戦闘状態が長引くほどに国力と兵力は減少していくので、これを好機と見た第三国が介入してくる可能性も発生します。すると二方面へ戦線を拡げなくてはならなくなり増々不利な状況へ陥ります。

 これを防ぐ最善の策は極力短期間で決着を付ける事です。戦争は他国と領土や資源を奪い合うために行われるもので、買ったとしても獲得した利益より戦争のためにかかった経費の方が大きければ赤字になります。そこで指揮官は常に勝って利益が出るラインを見極めながら早急に軍を動かすことが求められるのです。

 

 ビジネスでは競合他社との値下げ競争が考えられます。自社・他社ともに値下げ状態が慢性的になるとどちらも利益率を上げられず、資本力が小さい方が音を上げるまでジリ貧の戦いが続きます。結果として勝利したとしても社内の余力を使い切っているだけなので、後進の他社から攻められると再び厳しい戦いを強いられます。

 もし価格を下げての販売戦術を実施するのであれば、期間限定キャンペーンなどで一気にシェアを奪取する必要があります。短期でエリア内のユーザを囲い込むことに成功すれば、価格を戻して以前よりも多くの利益を上げることができます。 

 

終わりに

 第二章”作戦編”では極力省エネで勝つことの重要さを説いています。これは手を抜いて勝つという事ではなく、無駄な場面では力を温存し、戦況を左右する重大な局面で一気に勝負を付けるという事。

 そしてこれを実行するうえで「戦争とは国家間の対立を解決するための手段の一つでしかなく基本的に非効率なものである」という考えを念頭に置かなければいけません。自国の権利を主張する際に交渉や示威行為で済めば過剰な兵力や物資を調達する必要はなく、場合によっては大敗を喫して状況が悪化する可能性もあります。

 戦争はどうしても衝突が回避できない場合の最後の手段(愚策)であり、その段階までいってしまったならせめて短期間で幕を下ろすべきものなのです。

 

 

 「兵は拙速を~」「智将は務めて~」を読んで東方遠征を思い出しました。殆どツイートにある通りです。

 現代のビジネスはただライバルを倒して領域を拡大すればいいという訳ではなく持続性(サステナビリティ)も重要。一発当ててすぐに事業を畳むのならばともかく、会社を長く残したいのであれば地盤固めも大切ですね。

 

それでは次回も、なにとぞよしなに

孫子 (講談社学術文庫)

孫子 (講談社学術文庫)