私と私が好きなもの

This is for you

父をうつから救ってくれたのはプラネテスでした。

  ヴィンランド・サガの放映に当たり(乗じて)、同作者のプラネテスに関する(極めて個人的な)想いを綴ります。

 

プラネテス(1) (モーニングコミックス)

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プラネテス Blu-ray Box 5.1ch Surround Edition

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父と私


  私の父は仕事に真面目な男。

  工業高校を卒業して地元の建設会社に就職し、だいたい週6で働いています(数年前までは週7もザラだった)。

 
  高校時代はバードウォッチング部に所属し若いうちはバイクや車に興じていましたが、結婚と出産を機に縁遠くなりました。

 

  もうすぐ勤続40年になる、所謂ふつーの"典型的なお父さん"。

 

  そんな父と私は、それほど仲が良かったわけではありませんでした。

 
  自転車の乗り方を教えてくれたり、年に一度は旅行に連れて行ってくれたりしてくれたけど。

  普段の日曜は仕事に行くか寝ているか、キャッチボールはしなかったし母親に叱られている時もふっと消えて庇ってはくれなかった。

 
  子育てや躾は祖母と母がメインで、だからか、父というよりは家にいるおじさんという感覚でした(一つ上の兄と友達のような感覚で接していたから寂しさは感じなかった)。

 


異変

  そんな父に異変が起きたのは今から6年前。

 
  家の片付けをしていた際にブラウン管テレビを足の上に落として骨折しました。命に別状はないが、約2ヶ月の安静が必要との診断。松葉杖を使えば歩行にも支障はないとのことで最初は安心していました。

 
  しかし休業から一週間程経った頃、父の様子がおかしくなりはじめました。日がな一日ボーっとしたり、テレビを眺めているかと思えば突然わけもなく歩き回ったり。

 
  当時私は実家の長野を離れて東京の大学に通っていたので直接は見ていませんが「まるで呆けた老人のようだ」と母は言っていました。

 

  父がこうなってしまった理由は「仕事に行けないから」。若い頃のアウトドアな趣味を断ち切り、家族のためにと仕事に打ち込み50歳に差し掛かったある日、突然仕事ができなくなった。

 
  そんな父を襲ったのは強烈な虚無感。これまでひたすら仕事に打ち込み続けていたので「やることがない」という状況に耐えられなかったのだそうです。

 

  父の惨状を伝え聞いた私は、大学の授業とバイトを理由に逃げ出しました。

  情が無かったわけではないけど、どう接すればいいのかわからなかった。幼い頃からどこかすれ違いを感じていた父を、父との関係と、真っ直ぐに向き合わなければいけないという重圧に耐えられなかった。

 


  しかし無情にも月日は流れる。8月の夏休み(より詳しく言えば盆休み)私は帰省しました。

  

  私が戻った頃には少し落ち着いていて、徘徊するようなことはありませんでした。しかし問い掛けにはどこか上の空で、悲しいかな、どんな話題を振っていいのかわからない自分もいました。


プラネテス


  そこでふと「プラネテスを観よう」と思いつきました。プラネテスは私が最も好きなアニメの一つです。大学進学直後に彼女にフラれた時には何度も観返して元気をもらいました。

 
  ここでプラネテスについて。

 
  現在好評放映中の「ヴィンランド・サガ」の作者である幸村誠先生のデビュー作で、2003年にNHK(制作サンライズ)にてアニメ化されました。

 

  2075年、宇宙でゴミ拾いをする人々が主人公。

  すこし未来の、すこし手が届きそうな宇宙で。

  私たちと変わらない普通の人間が、生命と愛に惑う、SF(すこしファンタジー)物語。

 
  名作です、マジで。今の生き方に思う所がある人や宇宙兄弟(こっちも面白い)が好きな方は、是非、ご覧ください。

 
  説明おわり

 

  そんな名作アニメを観たくなりました。おそらく、父と正対する事が怖くなった逃げの一手だったのだろうと思います。

 
  静かな食卓を囲み家族揃って粛々と摂取を済ませた後、徐にDVD一巻を再生しました。

 
  自分の理想と真逆な職場で苦しみながらも、譲れない想いを貫き通したタナベの強さ。
  相容れない後輩とぶつかりながらも、かつての失敗を乗り越えて着実に成長するハチマキ。


  そんな彼らの姿に勇気をもらい涙腺を緩ませつつテレビの電源を落とそうとした矢先。

 
  「続きは?」と父が一言。

 
  目を丸くする母と大慌てで二巻をセットする私。

 

  宇宙葬から還ってきたミイラが欲したものは夢か、愛か。

  サラリーマンにプライドは不要?サラリーマンだからこそプライドが必要?

 
  そんな3、4話を視聴してその日はお開き。翌日からも夕食後に2話ずつ観るのが恒例となりました。例え父が続きを観たがっても、1日2話まで。

 
  こうして全26話を観終わる頃には父はかなり話せるようになっており、私も取り留めもない会話が続けられるようになっていました。

 

  

  今日も父は土曜だというのに仕事へ行っています。ガレージにはGOプロ装備のバイクが停まっています。かつて酒とタバコが置いてあった棚には風景の写真集がギッシリと(たまに安物のボトルワインが置いてあることも)。

  

おわりに

  再び元気を取り戻した父と話していると、ふと思う事があります。「あの経験は決して悪いことばかりではなかったな」と。

 

  私が帰省する前の父、母、祖母はとても大変な状況だったので、こんな事を言ったら怒られるかもしれませんが。

 
  でも、これをきっかけに私は人生で初めて父と向き合う事ができました。そうでなければ、平行線のままで一生を終えていたかもしれません。そして父も以前とは比べ物にならない程に生き生きとしています(息子2人が自立した所為もありますが)。

 

  起きてしまったことは変えられませんが、その経験を前向きに捉える事で少なからず"意義があった"と感じる事は出来るはず。

 

  天は自ら助くる者を助く。

  父が今も元気に過ごしていられるのは、他ならぬ父自身が自分を助けたに間違いありません。

 
  しかし、その転機を後押ししてくれたのはプラネテスでした。今でも感謝しています。

 
  と、そんな個人的な想い出は抜きにしてもプラネテスは名作です。原作漫画もオリジナル要素がたっぷりなアニメも両方大好きです!

 
  ヴィンランド・サガも面白いですが、もし良ければプラネテスもよろしくお願いいたします。

 

  そんな事を思い出す、夏のある日でした。

 
  それでは次回も、なにとぞよしなに

 

EMOTION the Best プラネテス DVD-BOX

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