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ブラック・テラー / 三堂マツリ 第7話 感想・紹介記事

 2018年発表作品で(個人的に)最も面白い『ブラック・テラー』(三堂マツリ:著)の各話感想・紹介記事(ネタバレ含む)を書いていきます。

 短いページ数の中で繰り広げられる絵本のようなファンタジックな絵柄と、あなたの予想を裏切るスリリングな展開が織りなす極上のショートストーリーを是非ともお楽しみください。

 

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紹介

 雪の降る寒いある日。少年は車に轢かれて横たわる少女を見つけた。彼女の身体からは血が流れ出し周囲一帯を赤色に染め上げる。

 そんな光景を目にした彼はとても可哀想に思い、同時に「治してあげたい」と強く願った。

 

 月日は流れ少年・ジムは診療所を開いていた。しかし診療所を訪れるのは変わった客ばかり。

 「指をあと二本増やしたいんだけど!」「私と恋人の血液を全部交換してほしいの」「不老不死の薬を調合して下さい」「背中の皮膚を剥いで本の装丁にしたいんです

 

 そんな変わり者達を追い返すジムに患者(希望者)は不平をこぼす。

 「大胆な手術をしてくれるって聞いて来たのに」

 

 

 何度追い払っても変人ばかり集まることに辟易したジムは診療所の看板を書き直そうと思い立つ。その矢先、一人の青年が彼に声をかけた。

 青年が連れてきたのは一人の少女。顔から足まで全身に傷や汚れがあり、着ている服もズタボロであった。彼女の姿を一目見て、ジムは喜び声を上げた。

 「そうそうそう これこれ こういう患者!」

 

 傷ついた少女・ロロはすぐさま手術台へ寝かされた。部屋は薄暗く、そこら中に物が散乱している、瓶から液体が飛び散り、蜘蛛が這っている。極めつけに彼女は手足を台に拘束されている。

 ロロが周囲を見回すと2人の女性がこちらを見て「クスクス」と笑っている。ジムが言うには”元患者”だそうだ。心配そうな彼女に彼は明るく話しかける。

 「じゃあ早速」

 

 「目ん玉 取っちゃおうか!」

 

 

 聴こえるのはロロの悲鳴、楽しげに話しかけるジムの声、新しい部品を枠から切り取ったり何かを引きずり出す音。

 その様子を恐ろしげに眺めていた元患者達も、目の前で繰り広げられる凄惨な光景に慣れたのか次第には「クスクス」と笑いだす始末。

 

 不衛生な手術室には、およそ人体の治療とは思えない耳障りな音と断末魔にも似た叫びだけが響いていた。

 

 ロロを預けに来た青年が弟を連れて再び診療所を訪れていた。弟はお礼を伝え、ジムは彼に”ロロ”と名付けられた少女の人形を手渡して告げた。

 「ロロは完璧に治ったよ」「彼女のこと大切にしてあげてね」

 

 雪の降る寒いある日、ジム少年は血に濡れてボロボロになった人形を抱きかかえた。

 「いつかきっと治してあげるからね」「だから大丈夫・・・大丈夫だよ・・・」

 

 ジムは診療所の看板へ新たに二つの文言を付け足した。

 「NO STRANGER(変人お断り)」「DOLLS ONLY(人形専門)」

 

感想

 第7話は叙述トリックを盛込んだ一発どんでん返し系の作品になりました。この回を最初に読んだ時は見事に騙されたのですが皆様はいかがでしたか?

 

 改めて読み返すと冒頭の回想シーンからミスリードが所々に散りばめられています。血の交換を望む少女も目や髪の色が特徴的で、いかにも人体改造をするマッドサイエンティストドクターに繋がりそうな雰囲気を匂わせていますね。

 

 他の回もそうですがこの第7話は特に読み返して二度楽しめるストーリー構成なっており、文字だけではなく絵柄にもオチのヒントになる描写が随所に見受けられます。

 しかし伏線をそうと思わせないのが三堂先生の凄い所です。常日頃から不気味なモチーフを描き込んでいるのと読者がそれを見慣れているせいで、どれが伏線でどれがデザインなのかわからない(笑)

 これは作品全体を「クリーピー・サイド」、不気味で何が起きてもおかしくない舞台に設定した事自体が壮大な伏線とも言えます。安易に「どこにでもある日常に潜む不可思議」等と位置付けていると伏線が目立ってしまい、このトリックは成立しなくなります。

 

 ちなみに(1/2):私は一回目に読み終わった後も、「実はちゃんとした人間だったロロが手術によって人形にされてしまった」「催眠術の類によって青年と弟は騙されているのでは」と妄想していました。何が起きてもおかしくない”クリーピー・サイド”なら、そんなこともあり得なくもない・・・?

 

 ちなみに(2/2):第3話「グリーンスキン」の主人公フランク君が再登場、コマ後ろの背景も3話と同じモスグリーンでニヤりとしてしまいました。折角同じ街を舞台にしているのですから、今後も作品内クロスオーバーがあって欲しいと期待しています。

 

終わりに

 諸事情により第3話から飛んでの第7話の紹介となりました。

 今回は漫画ならではのトリックをふんだんに使用している為、文字に書き起こすのが難しかったです。どうでしょう、上手く騙せる文章になっているでしょうか?

 

それでは次回も、なにとぞよしなに 

ブラック・テラー (バンブーコミックス タタン)

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