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ブラック・テラー / 三堂マツリ 第3話 感想・紹介記事

 2018年発表作品で(個人的に)最も面白い『ブラック・テラー』(三堂マツリ:著)の各話感想・紹介記事(ネタバレ含む)を書いていきます。

 短いページ数の中で繰り広げられる絵本のようなファンタジックな絵柄と、あなたの予想を裏切るスリリングな展開が織りなす極上のショートストーリーを是非ともお楽しみください。

 

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紹介

 少年は祖父の部屋が好きだった。そこには沢山の本があったから。

 彼は本の中身ではなく装丁が好きだった。多種多様でとても綺麗だったから。

 特に一冊の本がお気に入りだった。それは人間の皮で作られていたから。

 

 とあるパッチワーク教室にて。多くの女性生徒の中に一人だけ青年の姿があった。彼は手先が器用で先生にも一目置かれていた。

 先生に褒められて謙遜する青年フランク。しかし彼が教室に通う本来の目的はパッチワークを教えてもらうことではないらしい。

 「好きな人目当て?」と茶化す彼女に彼は慌てて否定する。だが続けて「半分くらい正解かもしれません」と呟く。

 

 そして彼は彼女に見てもらいたい物があると伝え、彼女もそれを了承した。

 

 その夜、先生はフランクの家を訪れた。中は広い造りになっているが薄暗く、そこら中に独特なオブジェが並んでいる。

 彼女が二階の書庫に辿り着くと書架梯子の上に彼の姿を見つける。やっと見つけたフランクに話しかけようとする先生の声を遮って彼が語りだす。そして手に持った飴色の装丁の本を見せながら、その魅力的な素材を教えてあげた。

 「人間の皮なんですよ」

 

 驚く先生にフランクは人皮装丁本への情熱を強く語る。そして

 「僕はそれをもう一度蘇らせたい」

 「そして貴方はそれに選ばれた」

 

 フランクは怯える先生の肩を抱き優しく語りかける。

 「大丈夫 すぐ終わります」「先生ほどの技術があれば」

 

 フランクは徐ろに上着を脱ぎ捨てゆっくり振り返る。

 その背中には長方形の、本の装丁に合わせた目印線があった。

 

 先生は家を飛び出した。それをフランクは残念そうに見つめる。

 しかし彼は諦めていない。次の"理解者"を求めて明日も街へ繰り出すのであった。

 

感想

 今回は人皮装丁本をテーマにしたゴシックホラーです。人皮を加工するというのは今話題の『ゴールデンカムイ』でよくご存知の方もいらっしゃるかと。また私の場合はロックバンド「人間椅子」の『天国に結ぶ恋』も連想してしまいました。

 

人間椅子傑作選

人間椅子傑作選

 人皮加工は非常に猟奇的なテーマですが、 そこへ至るプロセスが素朴で温厚なパッチワークという対比が常人と奇人のコントラストを際立たせています。

 

 しかし『魍魎の匣』(京極夏彦:著)からうろ覚え引用すると、「人間を殺めるのは衝動的かもしれないが、人間を解体する行為は極めて理性的である」というくだりもあります。加工対象が牛・豚か人間かという違いに目を瞑れば、より良い素材で作品を残したいという"職人魂"のような物には共通点が見出せる気がします(当然ながら「その差があまりにも大きい」という倫理の一線を超えるかどうかが重要なのですが)。

 
 つまり、常人はほんの僅かなきっかけで異常者になりうるというメッセージが込められていたりする?
ちなみにタイトルの「グリーンスキン」で検索するとゴブリン等のファンタジー系のキャラクターばかりが出てきます。このゴブリンは人型でありながら人間族ではない"亜人(デミヒューマン)"です。
 となると、さらに「人間を人間として見做すか。人間を人間たらしめるものは何か。」というテーマにまで派生する?
 "グリーンスキン"の由来についてのご意見募集中です。
 
 最後に作品全体のデザインについて。1〜2話、また以降の話も同様なのですが、この漫画の背景(コマの後ろ)はダークトーンの横縞で彩られています。そして今回は背景がモスグリーンの装丁になっており、タイトルと合わさっていて素敵です。コミックスでもちゃんも再現してくれると嬉しいですね。
 

終わりに

 第3話は私が好きなエドガー・アラン・ポーを彷彿とさせるゴシックホラーが展開されました。短くすっきりまとまっていてフィールソーグッドです。

 

 順番的に次は第4話なのですが、公式での公開が終了していますので単行本発売に合わせて執筆予定です。

 

それでは次回も、なにとぞよしなに 

ブラック・テラー (バンブーコミックス タタン)

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