2018年発表作品で(個人的に)最も面白い『ブラック・テラー』(三堂マツリ:著)の各話感想・紹介記事(ネタバレ含む)を書いていきます。
短いページ数の中で繰り広げられる絵本のようなファンタジックな絵柄と、あなたの予想を裏切るスリリングな展開が織りなす極上のショートストーリーを是非ともお楽しみください。
ブラック・テラー|第1話 注目せよ|コミックタタン https://t.co/T7hccyKJ2x
— 三堂マツリ (@mido_mads) 2018年8月27日
紹介
プロローグ
記念すべき第1話は世界観の紹介から始まります。
舞台となるのは”不気味と隣り合わせの街「クリーピー・サイド」”。夜道で少年は奇妙な男とすれ違う。彼は帽子を深く被りステッキ片手に鼻歌を歌いながら上機嫌に歩く、腰から蜘蛛を垂らしながら。
「蜘蛛を落としたよ」と声をかける少年に対して、男が言うには「この蜘蛛は落ちたのではなく降りたのだ」。そして蜘蛛は何かに惹かれるように暗い路地へと消えていった。
起
息を切らせながら夜道を走る一人の少女。助けを呼ぼうと叫ぼうとした彼女の口は追いかける男の手によって塞がれる。
彼女が大きく見開いた、その目に映るのは今にも刃物を突き立てようとする若い男の姿であった。彼は眉ひとつ動かさずに、無表情のままこう言った。
「はい!チーズ!!」
承
そう口にすると若い男、ウィルは刃物をカメラに持ち替えて少女の驚く顔を写真に撮った。さらに正確に言えば、彼女の瞳孔を。
ウィルはこうして人を驚かせては、その人の瞳を記録に残していた。そして現像した写真を壁一面に飾り、数えきれない程多くの”瞳孔”に囲まれることがなにより彼を安心させるのであった。
しかしそんなことを繰り返していたある晩に彼は出会ってしまった。その名はマリィ、刃物を突きつけられても動じない女性であった。
転
それからというもの、ウィルは幾度となくマリィに付きまとった。代わる代わる、あらゆる凶器を手にして。しかし何度彼女を脅しても、その瞳孔が開かれることはなかった。
ある月明かりが綺麗な夜、ついにウィルはマリィを押し倒しナイフを構えた。だが彼女の瞳はいつもと変わらず暗く濁ったままであった。そんな彼女の目に耐えられなくなり彼は自分の内心を吐露する。
「そんな興味のない目を オレの両親と同じ目を向けるなッ」
その時であった。マリィの瞳孔が大きく見開かれたのは。
結
予想していなかったタイミングで見開かれた瞳に驚きを隠せないウィル。理由を問いかける彼に対してマリィは語りかける。今までの無表情かつ無関心な彼女と同一人物とは思えない程の、上気した頬と、饒舌な口振りで。
彼女は去り際に彼とツーショットを撮っていった。ポラロイドカメラが吐出した写真を見て彼は呟いた。
「最高記録更新だ・・・・・・」
感想
まずいきなり個人的な性癖の話で申し訳ないのですが、私、クラシックスーツが大好きなのです。プロローグで出てきた謎の男のスタイリングを見ただけで、そりゃもう気分が良くなってしまいました。そして本編に出てくるウィルもウェストコートがビシっと決まっていて「実際、クラシックだよ。お前ってやつは・・・」という感じです。
さて真面目な感想。プロローグで蜘蛛を見送った男のセリフ「彼女は賢いから必ず私の元へ戻ってくる」というもの。この謎の男は最終回で再登場するのだろうと思っているのですが、その時どのようなスタンスで現れるのか。
1 蜘蛛が奇妙な物語の蒐集者としての役割を果たし、傍観者である男が纏める。
2 蜘蛛は男の凶気に惹かれて戻ってきて、謎の男が最後の主人公となる。
第1話の時点で最終回の予想というのもなんですが、予想が当たれば嬉しいし、それを上回って裏切ってくれるのも楽しみにしています。
マリィについて。とにかく可愛くてなにより。今は下火となりつつあるクーデレの正統派スタイルといってもいいでしょう。ウィルの凶行には一貫して冷めているものの、彼自信に対してはそれなりにリアクションをとっているのも良いですね。
要所要所で差し込まれるモチーフとしての魚について。哺乳類や鳥類、爬虫類等と比べて魚類というのはある種独特な世界観を帯びています。”まな板の上の魚”というように、諦観を醸し出すのにうってつけな種族であります。これに関してはpanpanya先生のインタビューも是非お読みください。
あとはネグレクトの象徴としての”目”ですが、私自身常日頃から目が死んでいるので気を付けないといけないなぁ、と思う次第です。ここはそんなに掘り下げなくても良いかな。
終わりに
というわけでネタバレ満載のあらすじ紹介ですが、こんな文章では本編の魅力の1/10も表しきれていません。現在1~3話と最新話周辺は無料公開されているので是非ご覧ください。3分もあれば読めてしまいます、読後感も爽やかです。
まだ単行本も発売されていないせいか、ネットで感想を目にする機会がなかなかないので寂しく思っています。いろいろな方の、いろいろな目線からの感想を読んでみたいものです。楽しみにお待ちしております。
それでは次回も、なにとぞよしなに