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メランコリア上巻 / 道満晴明 感想・紹介記事

 今回紹介するのは道満晴明先生が贈るショートストーリーオムニバス『メランコリア』です。本作は『性本能と水爆戦』や『ニッケルオデオン』等でショートストーリー漫画の名手として定着している同氏が挑む意欲的なオムニバス集。これまでも作品内で緩やかに内容が繋がっているという例はありましたが、今作は全ての話が同一世界で展開されているのが特徴です。

 

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

 

www.aerodyne0739.net

 

 基本的にはSF(すこしふしぎ)なお話が1話12ページで綴られています。個々の物語は背景も方向性もバラバラでありながら、破綻なく繋がっているので読んでいて気持ち良くなってきます。それもカメオ出演ではなくチャプターの根幹に絡んでくるレベルでの繋がり具合です。

 

 前置きはこれくらいにしておいて、早速内容をご覧いただきましょう。

 

 

 メランコリア 上巻

WES(パイロット版)

 

 作者曰く「メランコリアの原型みたいな作品」とのこと。

 たったの4ページに凝縮された滅ぶ世界とそこに生きる人々(?)の想い。この悲壮観の無いあっけらかんとした頽廃的な雰囲気こそドーマニズムの真骨頂と言えます。

 

Apocalypse

 

 目次をめくるとそこは終末だった。

 ビルは崩れ謎の生物が蠢きサイレン鳴り響く廃墟で唯一生き残ったのは、10年間部屋から出ていない筋金入りの引きこもり少女。そんな彼女に喋りかけるのは二足歩行する猫。「ワガハイはネコである。名前はモーアル」。

今まさに神の代理猫に最後の審判を下されようとしている少女の運命は……。

 

 一発目からドーマニズムフルスロットル。何の前触れもなく滅亡した世界で始まる最後の審判。猫が人間より上位の存在であることは福山芳樹さんも歌っているので疑いようのない真実。

猫に聞け

猫に聞け

 

 

 さて。この少女は10年前、既に交通事故で他界していたわけですが彼女が存在するこの部屋は何なのでしょうか。私が思いつくのは「自分の死に気付いていない地縛霊」ですが、幽霊って成長するのでしょうか?メンマは少女のままだったし……。

 この辺のアンサーは下巻の【Z】で明かされるのではないかと期待しています。どうやらループ物になるようなので。

 

 ”モーアル”ってネーミングはさすがですね。【J】の”えろはす”に匹敵するくだらなさです。こういうネタをさらっとぶち込んで後に引かせないところが好き。

 

 生前の善行のおかげで10年の余生を得た彼女。今度こそ無為にしないように。でも元も子もない話をすると、善行のせいで命を落としたのだからなんともはや。

 

 この話に関しては下巻を読み終わってから加筆しようと思います。そうするべきだと囁くのよ、私のゴーストが。

 

関連エピソード【K・V・W・X・Y・Z】

 

Bobby fisher

 ”ボビー・フィッシャーの再来”と呼ばれる天才少年もチェス以外ではフツーの男の子。しいて言えば年の割には混浴に対する紳士の嗜みを心得ているくらいか。

 彼が学校帰りに立ち寄るのは”森の魔女”と噂される謎の美女の家。人々が避けるその家で彼を待ち受けているのは……。

 

 選ばれたのはオネショタでした。森の魔女と天才少年のプラトニックな恋模様(混浴はしているけど)。

 エロ漫画の導入のような始まり方をしますが本筋はタケルの成長物語。実在するフィッシャークロックルールを歳の差恋愛に絡める発想力には脱帽です。チェスAIの名称”ディープ・パープル”も実在するAI”ディープ・ブルー”から。

 

 「キミが私の事待ち続けてくれるなら いつか二人の持ち時間の差はゼロになるんだ」いいですね、元来の年上好きである私にとっては夢のようなセリフ。いやでも、歳の差があるから良いという面もあるんですけど。

 

 後の【J】と関連すると浮かび上がるのはオネショタとは違う、もう一つの恋愛模様。好きな相手ほどイジめてしまうというアレですね。

 最後の明るく前向きなタケルな独白が非常に清々しい。ウェイトラヴァーズ(単行本未掲載作品)に近い読後感を味わえました。

 

関連エピソード【J・P・U・X】

 

Cutthroat

 世界ランク86位の殺し屋が依頼を受けたのは女子高生を始末すること。巨大な売春組織を築き上げてしまった3人は裏社会に目をつけられてしまう。 その内2人は泣き叫んで助命を乞うが、1人だけ冷静な女子が……。

 

 出ました!殺し屋世界ランク!ヴォイニッチホテルのクロサワ(4位)や間宮姉妹(11位)には劣るものの、確かな腕を持つ27歳の男。クロサワはバイだしこの男は童貞(死姦経験アリ)だし、殺し屋に性癖ノーマルはいないのか。

 

 このストーリーには初読時から既視感を覚えていたのですが、ニッケルオデオン青の『食餌の衝動』に骨格が似ていますね。家庭内での虐待、幼い妹とクールな姉、圧倒的な暴力。食餌は偶然に当作は意図的にという違いこそあれ、自分1人では太刀打ちできない現実に悪を利用してでも立ち向かう強かさは美しい。

 

 アイデア賞は【マリオ穴】。確かにスーパーマリオの落ちた先ってどうなっているのでしょう。そしてこんなギャグ要素をシリアスの中に放り込み、なおかつ読者に納得させる手腕はお見事。

 

関連エピソード【F・H・K・M・X・Y】

 

ニッケルオデオン 青 (IKKI COMIX)

ニッケルオデオン 青 (IKKI COMIX)

 

 

Do not disturb

 とある南の島のとあるホテルにて。一週間も「入室お断り」な宿泊客の部屋を掃除する為、新人メイドが扉を開く。そこには作家の遺骸と書き途中の原稿、そして地下へと伸びる梯子があった……。

 

 アィエェェ!エレナ?!エレナナンデ?!?!

 取り乱しました。まさか前作ヴォイニッチホテルが舞台になるとは。まぁなんでもありの不思議なホテルですからおかしくはないのですが。

 そういえば。同作には世界屈指の難問を解き明かすも、発表前にオーバードーズで命を落としたメルチェロというキャラがいました。【C】同様に骨格こそ似ていますが、受け身で解の公表にこだわらなかったメルチェロと作品の完成の為にマルタを取り込んだボグダノヴィッチという対比があります。

 

 作家ボグダノヴィッチは映画監督ピーター・ボグダノヴィッチ氏から。明確な言及はされていませんが、同氏の代表作に『ニッケルオデオン』があるので間違いないかと。

 

 この地下空間はマルタの原稿が実体として構築され、そこからインスピレーションを受けて作品の続きを書くという相互干渉型の世界が広がっているのではないかと考えられます。

 とはいえ舞台が舞台なので単純に屍者の帝国が現実に存在し、その体験記をまとめているという展開でもおかしくありません。なんでもありのヴォイニッチですからね。

 

 最後のページ。ボグダノヴィッチの「若い娘にはロマンスが受ける」というアドヴァイスに半信半疑のマルタ。しかして彼の読み通りエレナはピーター王子に夢中なようです。作家の勘所は衰えていないボグダノヴィッチ氏はさすが!そしてロマンスに喜ぶエレナの感性も若い!たとえロリババァ魔女でも感性 ”は” 若いですね!

 

関連エピソード【F・P・Q・U・X・Z】【ヴォイニッチホテル

 

 

Efficacy

 

 楽して稼げるという事で怪しい治験のバイトを務める青年。不自由のない生活を送れていたが日に日に増していく不信感から逃げ出そうとする。そんな彼の前に立ちふさがるのは血塗れの白衣を着た主治医達……。

 

 これにも既視感。それはホラー漫画家伊藤潤二先生の『血玉樹』です。恐らく多少のオマージュはあるのでしょうがオチで大きく違いが表れています。

 血玉樹では襲われた人間が餌食となり食糧にされて終わりますが【E】では主人公が吸血鬼よりも上位の立場として扱われます。前者は未知の植物に襲撃されるスリルやサスペンスを主軸にしているのに対して、後者はあくまで理性的に食糧問題を解決する為の実験としてストーリーが展開されます。

 

 ラストシーンでは主人公と吸血鬼たちの共存関係があっさりと構築されるのもグッド。ダークな内容をコミカルに締める事で妙に心地よい読後感を味わえます。

 

 この【E】は現時点で他のエピソードとの関連が見当たらないのですが、どこか見落としているのでしょうか?どなたか指摘していただけると非常に助かります。

(下巻にいくつか関連エピソードがありました。)

 

関連エピソード【U・Z】

 

血玉樹(伊藤潤二コレクション 78) (朝日コミックス)

血玉樹(伊藤潤二コレクション 78) (朝日コミックス)

 
「画家」「血玉樹」

「画家」「血玉樹」

 

 

Farfrotskies

 突如女子高生の頭上に魚が降り注ぐ。その原因を探す為、池へ田んぼへ駆け巡る2人は真相を突き止める。しかし1人が”それ”に巻き込まれてしまい……。

 

 実際に存在するファフロフツキーズ現象から着想を得たストーリー。空から降り注ぐ火玉舞い降りる鉄騎魚や蛙、そして人(&……)。質量で飛ばされるものが選り分けられるという理屈は分かるのですが、それを某国会議員で例えるとは。シニカルなジョークがニクいですね。

 

 魚のお腹に付いた十字傷を見た時に自分のお腹も見せびらかすハナと、無防備に上着を捲るハナに照れるミズキ。急に百合っぽいシーンを挟んでこられても素直に受け止められない!定番イベント「下の名前呼び捨て」もそんな形で消化してしまうのか。

 

 ちなみに。女子高生の名前を合わせるとハナミズキとなるのですが、どうやら植物のハナミズキはキリストを貼り付ける十字架に使われたという伝説があるようです。もしかしてハナのお腹の十字傷は……?

 

 オチはおそらく「そらのおとしもの」にかけてるのでは。

 

関連エピソード【C・W?】

 

Gestalt

 恋愛脳の女子高生は意中の相手に送信するメッセージの文面に悩んでいたが、突如「好」という文字にゲシュタルト崩壊を起こす。それは彼女の脳に深刻な影響を及ぼし、恋愛に関するすべての情報に吐き気を催すようになってしまった。彼女の恋愛模様の行く末は……。

 

 お次はファフロフツキーズよりも聞き馴染み深いゲシュタルト崩壊をテーマにした一編。脳の視覚野に引き起こされたダメージが触覚や聴覚、思考にまで連動するという筋書き。調べてみるとウィキペディアにも同様の記述があるので、どうやらこじつけ設定ではないようです。勉強になりました。

 

 本題。好きがわからなくなり、過去に付き合った友達と接する事すらできなくなってしまったナオ。そんな彼女が頼りにするのは皮肉にも、恋愛感情を一切刺激しない図書委員の夏目っち。夏目にとっては初めての友達でありナオに強い親しみを感じているが、ナオにとっての夏目は「好きにならないからこそ一緒にいられる存在」。

 

 事前に友達との百合カップル歴が言及されている為、読者はナオと夏目についても恋愛関係に発展する可能性を強く意識せざるを得ません。しかしそうはならない、ナオのゲシュタルト崩壊が解消されない限りは。つまり夏目にとっては初めから叶わない恋というわけです、嗚呼悲恋。

 

 果たしてナオの恋愛観が正常に戻る日は来るのでしょうか。それともナオと夏目の歪な関係が続いていくのでしょうか。

 

関連エピソード【D・K・Q・X】

 

Hand spiner

 夏休みを一週間後に控えた夜の学校で天体観測をする少年少女。2人は終業式の日に待ち合わせの約束をする。浮かれた気分で帰路につく少女の前に現れたのは宇宙人。彼らは少女に時間を巻き戻すことができる不思議なハンドスピナーを渡すのだが……。

 

 タイトルにある通りテーマはハンドスピナー。連載当時の2017年には爆発的なブームになりました。現実のハンドスピナーはどれだけ回しても時間が戻ることはありませんが、夢中になっているうちに時間が進むことは多々あります。

 

 で。冒頭は大ヒット青春映画「君の名は」のパロディから始まります。地球に最接近する彗星”メランコリア”を鑑賞する2人。彗星の衝突によって二人の身体が入れ替わり、なんて妄想を口走る八百津さん。まさか後にあんなことになるなんて……。

 

 その後突如として現れる小型宇宙人。顔は見えないがどことなく猫っぽい彼らが妙に可愛らしい。そもそも彼らが地球に接近した目的はなんだったのか、そんな事には全く触れずハンドスピナーを渡して去っていきます。このエピソードにおいて彼らの役割はそれだけ!

 

 そして迎える終業式の日。結局、依田を救う事を諦めた八百津はハンドスピナーを回せませんでした。「君の名は」であれば迷いなく回していたであろう場面で、悩んだ末に逆の選択をしました。どんなに便利な道具があっても、人間の運命を左右するのは人間の心ということでしょうか。

 

関連エピソード【C・L・M・V・W・Z】

 

Internal organs

 

 品行方正容姿端麗な生徒会長が想いを寄せるのは、ヤンチャな見た目の普通の男子。気持ちを伝えられない彼女が選んだのは彼の内臓を生きたまま抜き取る事。人目に付かない場所で”彼”との逢瀬を楽しんでいたが、補習を受けにきた不良少女に見られてしまい……。

 

 ニッケルオデオン赤『回収委員と幻肢痛』!!

 本人に思いを告げられず、部分を愛でるという内容。ヴォイニッチホテルでもエレナがクズキの心臓に口づけるシーンがあったし、この辺りは道満先生の趣味なのでしょう。もうここまで来ると「なんで内臓抜いても平気なの?」といった疑問すら湧いてきません。そういう秘術があるんです、以上!

 

 お気に入りのシーンは会長がメガネ男子を馬鹿にした時に「これでおあいこ」と締めくくった場面です。いざ同じ状況になった際に会長(の意中の相手)に言い放ってしまった軽口を忘れておらず、両成敗としたところに心根の良さを感じました。その後はピクニックに行くなど仲良しになったようですし。

 

 しかしメガネ男子のメガネを笑顔で殴ったりメガネは恥部だと言い切ったり、明るくぶっ飛んでいるのが妙に心地よいというか清々しいというか。

 

 このエピソードも【E】同様に、他との関連が見当たりませんでした。ご指摘お待ちしております。

 まさか大ラストの伏線に使われるとは、お見事!

 

関連エピソード【Z】

 

ニッケルオデオン 赤 (IKKI COMIX)

ニッケルオデオン 赤 (IKKI COMIX)

 

 

Juvenile

 夏休みに入ったらガキ大将が女の子になっていた。「大股開きして股間でピースするんだぜ」という理由で野球を辞めてしまった彼だが、それほど女性化に困っている様子はなさそう。どうにも危なっかしい彼をサポートする友人の想いとは……。

 

 TS?BL?恋愛事情がごっちゃになって色々起こっているけど、とりあえず一段落。そんなお話です。

 カンバラ(男)→好き→タケル(男・【B】のチェス王子)。しかしタケルが海外へ行っている間に性転換(性変身?)する。すると宮城(男)→好き→神原(女)。あとはちょっかいを出してくる委員長(女)。

 委員長はどういうスタンスなんでしょう?カンバラ・タケル・宮城の誰かに想いを寄せているとは邪推できるのですが。個人的には委員長→好き→宮城だとより一層混沌として面白い。

 

 それと宮城はいつから神原の事が好きだったのか。男の頃から?女になったから?カンバラ自体が薔薇趣向だった事から宮城がカンバラを好きだったとしてもおかしくはないんですよね。

 神原に性的いやがらせをしようとする男子を角材で殴ったり、とりあえず埋めてみたり、シュールなやり取りに思わず笑ってしまいました。

 

 アイデア賞は【えろはす】。実際に出してほしい、ピーチ味で。インスタ映えする!

 

(TSと言えば「ボクガール」という漫画が好きです。アニメ化期待してたけどその前に完結してしまった。)

 

関連エピソード【B・K・T・X】

 

ボクガール 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ボクガール 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

 

Kidnap

 誘拐犯から身代金要求の電話がかかってくる。逆探知の為にできるだけ電話を引き延ばそうと母親の口から紡ぎだされる言葉の数々。「ハト時計ってご存知ですよね?」

その頃誘拐された女子高生の元へ一人のヒーローが向かっていた……。 

 

 謎のマスクヒーロー(神原の同級生)が殺し屋ランク24位の女子高生を助けるお話。

 これだけでも十分に楽しめるのに、さらに【A・C・G・J・M】と5つのエピソードと絡めてくるトリッキーさも兼ね備えています。メランコリアワールドの横の拡がりを強く意識させられる一編。

 

 下着姿で拘束されている現役モデル女子高生の早川さんが非常に目の保養に、なり、ますよね……?傷痕の描き方がヴォイニッチホテルのベルナや『最後の性本能と水爆戦』の人面瘡少女を連想させます。あとヒーロー物と言えばニッケルオデオン赤『ヴィジランテ』を忘れてはいけません。

 

 道満先生はアメコミも大好きですし、このテーマで一冊くらい描いてもらいたいのですがどうでしょう。あえて短編にして物足りないくらいが丁度良いのでしょうか。あと前述のヴィジランテとのクロスオーバーとかもあると嬉しいのですが。秋田書店ヴォイニッチホテルをがっつり絡めてくるのであれば、小学館のニッケルオデオンからもキャラ出張してもよさそうなものですが。

 

 ラストで敵味方になることを示唆するシーンが美しい。きれいなドーマンでした。

 

関連エピソード【A・C・G・J・M・T・W・X・Y・Z】

 

最後の性本能と水爆戦 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

最後の性本能と水爆戦 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

 

 

Labyrinth

 ダンジョンを探索する少女。どうやら最奥には彼女の友人が閉じ籠っているらしい。主人公の思考を読み切っているかのように仕掛けられた巧みな罠に翻弄されながらも、ついに彼女はそこへ辿り着く。再開を果たした2人は……。

 

 ニッケルオデオン青『ほうき星のナルナ』。

 MMORPGをテーマにしつつ、その中にいる人間の想いを描いた作品。ところどころにパロディが効いていてオタクが好きそうなな味付けになっております。もちろん俺好みの答えだ。

 

 オンラインゲームの中で容姿を変えても居場所を変えても。結局自分はどこまでいっても自分なんだと考えさせられました。ゲームに限らずSNSやVtuberなど「自分が自分でなくなる」と錯覚できる機会や技術は日に日に進歩しています。しかし気持ちの表面を繕っても最後に在るのは自分自身。

 

 そんな自分に立ち向かうもよし、逃げるもよし。ただ忘れてはいけないのは、完全に切り離すことだけはできない。生きるとは自分との対話を続けることなのですから。

 

 なんて堅苦しく考えるようなお話ではないので純粋に楽しめばいいと思います。そして今明かされる衝撃の真実ゥ!

 

関連エピソード【H・M・U・X】

 

Melancholia

 

 刻一刻と地球に近づく彗星”メランコリア”。核ミサイルで迎撃するという無駄なあがきを眺める病気の少女と元警察。少女には夢があった。それは「人類が滅亡する瞬間を自分の目で見る事」。二人は流れ星”メランコリア”にお願いをする為に山登りをするが……。

 

 全26編(アルファベット順)からなる『メランコリア』の前半を締め括るのは、表題作「メランコリア」。なんですかこれは、ちょっと出来過ぎじゃあありませんか?しかも無理矢理こじつけたわけでもなく、確かに全編通してメランコリー(憂鬱)な作風で通っているという。いつもふざけているようで、こういう細かい芸当を見せつけてくるので油断ならないのです。

 

 さて本編。世界には着実に滅亡が迫っているというのになんとものんきな二人組。【L】の後半で語られたようにパニックは一通り過ぎ去って穏やかな心境になっているようです。とはいえ世を儚む自殺志願者もいるので、この二人が特別という説も捨てきれませんが。

 

 それにしても珍しい組み合わせですよね、世界の滅亡を所望してやまない少女と、失敗から自暴自棄になった元警察ニートの二人組とは。本来であれば一部の特殊なモブキャラとして済まされそうなキャラクターに光を当てるという、独特なセンスが存分に発揮されています。

 

 気になっていたのが1点。ニートが憂鬱なのはわかるのですが、少女は意外と元気そうで憂鬱とは無関係なキャラクターということ。しかし最後に彼女が夢半ばで倒れることでニートのメランコリーが倍増しました。さらに言えば読者のメランコリーも倍増です。つまりこのエピソードにおいて主人公はニート1人であり、病気の少女ですら舞台装置に過ぎないのではないか。いずれにせよラストは少し悲しい終わり方でしたね。この辺りは性本能と水爆戦っぽい雰囲気。

 

関連エピソード【C・H・K・L・P・S・W・X】

 

終わりに

 さて、上巻の全話レビューを終えました。現時点で9千字近い!ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

 ちょうど本日、メランコリアの下巻も発売となりました。私はコミックス派なのでまったく情報を仕入れていません。

 

 

 果たして地球は滅亡するのかしないのか!

  性本能と水爆戦やニッケルオデオン等とのコラボはあるのか!

   モーアル・えろはすに続くアイデア小ネタはいかに!

 

 なんでもアリの笑えて楽しい憂鬱オムニバス集メランコリア、後半も目が離せません!

 

それでは次回も、なにとぞよしなに

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

 
メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス)