ついに待ちに待った下巻が発売されました!上巻から丁度1年後の3/19発売。
Zへ至りAに繋がる終末掌編漫画メランコリア下巻
— 道満晴明 (@dowmansayman) 2019年3月17日
19日に発売となります
よしなに
駅伝する人魚の話とか
エロ漫画描く葛飾親子の話とか
行列に並ぶ腐の話とか
あります pic.twitter.com/CXFY9MCg6f
道満晴明先生の作品紹介及びメランコリア上巻は以下の記事をご参照ください。
上巻終盤では「地球に彗星が衝突しようとしている」という衝撃的な事実があっさりと判明しました。果たして地球の運命は?!
メランコリア下巻
Nursery story
二本足で地上を闊歩する人間にあこがれた人魚。彼女の願いは箱根駅伝に出場する事!禁じられた薬によって声と引き換えに脚を手に入れた少女は駅伝への出場を申し込む。そんな彼女を恨めしそうに眺めるもう一人の人魚は……。
道満劇場後半の部は人魚百合からスタート!何でもアリか?何でもアリだ!
ニッケルオデオン青『Grimm DEAD』を始め、過去作でも童話をモチーフにしたストーリがいくつかあります。ファンタジーな雰囲気をそのまま残したものもあれば今作のように思いっきり現代風アレンジしたものもあり、ショートストーリーの名手としての手腕を思う存分発揮しています。
本編。薬によって脚を手に入れたイサキが副作用として声を失うことはありませんでしたが、ついには脚を再び失うこととなりました。かといって本来の尾ひれが戻ってくる事も無く、結局彼女は地上での一時の思い出と引き換えに脚も尾ひれも失ったのです。
原作の『人魚姫』では叶わぬ恋を胸に抱いたまま海の泡と消えてしまいましたが、こちらでは命を失う事も無く不自由な体とともに生き延びました。さらにラブカもイサキに殉ずるように陸へ上がり、彼女と共に滅び行く地上で暮らすこととなりました。
正解などありはしませんが。綺麗さっぱり海に消えてしまうのか、誰かと苦しみを分け合いながら生き永らえるのか。果たしてどちらが幸せなのでしょうか。と考えてみると、たったの12ページでありながら非常に深い物語になっていることが分かります。
真面目な話から一転。人魚の交尾ってそうなるのか……。そりゃあ確かに生殖器官を備える下半身が魚類と同じである以上、そうならざるを得ませんが。「人魚の交尾シーンがモザイクなしで繰り広げられる!」と書くと聞こえはいいですが、私は興奮できませんでした。それでも一部の界隈の方々には受けるのかも?
最後に真面目な話に戻ると。オス人魚が「彗星が地球に衝突しても深海なら安全」と語っていましたが、実際の所どうなのでしょう。確かに「地球が滅ぶ!」と声高々に叫んでいるのは陸に住まう地上人の目線であって、海中の魚類には関係ないのかもしれません。本当にそうか?やはり生態系には大きく影響するだろうし、実は陸だろうが海だろうが行く末は変わらないのかもしれない。言っているのがチキンヘッドっぽい人魚だったからよりそう感じるのかも。
関連エピソード【Q・U・X】
Oui
時は江戸時代。天下に名の知れた名画家葛飾北斎とその娘お栄は絵に没頭する日々を送っていた。ある日山中に墜落したUFOと接触したお栄は未知の草双紙を持ち帰る。その時歴史が動いた……。
快楽ヒストリエ!もうこれは快楽ヒストリエじゃないか!それは今のワニマガジン社「快楽天」のギャグ漫画枠を支える屋台骨。かつては道満先生も「ぱら☆いぞ」を連載していた不朽不可欠の一大分野です。
考証。
「富嶽三十六景」で世界的に注目される葛飾北斎であるが、影の代表作ともいえるのが「蛸と海女」。簡単に説明すると人間の女性が二匹のタコに触手プレイを受けている絵。しかも発表した時の北斎は御年60。歴史に残る問題作です。
もう一つ北斎が世界に衝撃を与えたのは「北斎漫画」と呼ばれる画集。それまで絵画と言えば見栄えの良い静止画が主流でしたが、北斎漫画に描かれているのは活き活きとした人や動物の姿。文字通り、現代にまでつながるマンガ文化の源流と言えるのです。
娘お栄は実在する葛飾応為の本名。彼女の作品は春画が特に人気で、父北斎に「美人画にかけては応為には敵わない」と言わしめたほど。つまり彼女が現代のエロ漫画家の元祖であったということは確定的に明らか。
以上から導き出される結論。このエピソードに描かれているのは全て史実である!
そんなふざけた内容ですが、この出来事がゆくゆくは作品内現代のマンガ文化に発展し地球の運命を左右することになります。ありがとう、ゲッサン!
ついでに。エロ漫画・天快楽・えるおうの語源遊びはぱら☆いぞを彷彿とさせますね。
関連エピソード【H・V・Z】
ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)
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Pal
ある出来事で右腕を失った挿絵作家に取り付けられたのは人工知能搭載で伸縮自在の義手。歯磨きから作画、会話相手まで務める便利な相棒を手に入れたものの作家はスランプに陥る。そんな彼の部屋にファンが訪ねてきて……。
人間とAIの友情物語?一応AIという体ではありますが、モチーフは『寄生獣』でしょう、過去にもぱら☆いぞでネタにしてますし。このAIの正式名称はディープパープル、【B】でタケルと対戦していたチェスAIですね。まさかここまで進歩しているとは。
テセウスの船あるいは義体のパラドクス。Twitterで話題になっていた漫画を思い出しました。
体を機械にする子とそれを集める子のSF百合(1/4) pic.twitter.com/ON026wO8VI
— しろし (@shirofox) 2018年12月18日
ここ数年で義体や人工知能の研究が格段に進みこうしたストーリーが現実味を帯びてきました。実際にAIが意志を持つようになり肉体と遜色ない器を手に入れた時、人間の尊厳とは、アイデンティティとは。
とはいえAIは恐ろしいばかりではありません。なんと、ついに、全自動歯ブラシが完成しました。【F】で「電動ハブラシ使っても7割は人間が磨いている」へのアンサー。結局最後には作家の命も救ったわけですし。AIコワクナイヨー。
他には【D】でマルタが執筆する『ナイトビジリア』の挿絵作家と言うのが意外と重要な伏線になっていました。これは気付けなかったなぁ、悔しい。
アイデア賞は滅亡が迫るにつれて便乗値上げされてゆく【Peeee】。確かにPeaceを走り書きするとPeeeeに見えなくもない。
関連エピソード【B・D・F・Q・X】
Quete
話題作「ナイトビジリア」が待望の映画化。同作は女性ファンからの支持が厚く公開初日には長い行列ができている。行列の途中で3人の腐女子が妄想トークに花を咲かせている最中、5月と言うのに雪が降り始める。舞い降りる季節外れの雪は次第に吹雪へと変わり……。
今回はここまでのエピソードの中で最も多くの人命があっさりと失われていきます。なのに腐女子はオタトークをやめない!このアンバランスな要素の共存並列がドーマニズムらしいですね。神谷と入野に真綾似かぁ、金掛かってるなぁ。
さらっと出てきたメランコリー症という奇病。実は【G】のナオが発症していました。するとぶち当たる疑問。ナオが元恋人達に対してメランコリー症を患ったという事は、ナオはゲシュタルト崩壊に遭って尚、彼女たちを愛していたのでしょうか。それとも過去の対象も含まれるのか?付け加えれば、もしやナオの症状自体がゲシュタルトではなくメランコリーのものだったかも?
あとBLしか眼中にない腐女子の話かと思いきや、百合も突っ込んでくる欲張りセット。なんでもいいから持ってこーい!
関連エピソード【D・G・N・P・X】
Rube goldberg machine
うだるような暑さの中、少年が家に着くと姉が帰ってきていた。他愛のない話をする中で姉が切出したのは、ピタゴラスイ…ルーブゴールドバーグマシンで焼いたパンケーキの思い出。パンケーキをせがむ姉に少年は「もう装置は壊れた」とそっけなく返すが……。
ピタゴ……もといルーブゴールドバーグマシンを題材にした一編。へぇ、あれって正式にはそう呼ぶんですね。一見無駄なように思えるカラクリの積み重ねを経てゴールに辿り着く様子を人生に例えた名作。儚くも美しい終わり方。
災害によって家族を失い一人きりになったヒロキの元へふらっと帰ってきた姉。後の【T】で千里も言及したように、確かに姉は亡くなっている様子。ということはヒロキが見た姉は幽霊なのでしょうか。猛暑であるという季節柄からお盆の里帰りと考えれば筋も通る(まだ5月だけど)。
登場した食べ物はチョコアイス・そうめん・パンケーキ・かき氷・赤福。おそらく赤福は「仕切がなくて箱の中で偏りやすい」って小ネタをやりたかっただけだと思う。伊勢神宮との関連も考えると太陽の神:天照大御神が思い浮かぶけど、どうにもこじつけ感の方が強い。他の食べ物も伏線がありそうな気がするのですがピンときませんでした。
なーんか、全体的に初期道満作品というか『続・性本能と水爆戦』ぽい雰囲気が漂っています。掲載誌が違ったらそのまま突入していてもおかしくないというか。私の中でメランコリアという作品自体が、道満晴明という作家の集大成のような位置づけになりつつあります。
関連エピソード【T・X】
Shelter / Screen
Shelter
地球の滅亡に備えて庭にシェルターを作った家族の話。まだ完成前ではあるが試しにシェルター内で過ごしてみる一行。しかし次々と欠陥が見つかり……。
ただでさえ12ページという短い尺なのに、それをさらに分割するとは。という訳で前半はとある家族の物語。ついに出ました!ニッケルオデオン緑『かわずカース』や青『とある家族の飲尿法』でおなじみのあの家族です!上巻はヴォイニッチ関係だけで冷や冷やしましたが、下巻ではしっかりと出してくれました。それにしても相変わらずぶっ飛んでいる。
前述の2作品をお読みいただけば分かりますが、この家族の(主に性に関する)倫理は捻じ曲がっています。特にラストの一コマ、あんな終わりがあってたまるか!
終末が近付きシリアスめいてきた中でのリフレッシュには丁度良かったかなと。
Screen
30万人が乗船できる避難用の宇宙船に乗船を求められた漫画家の話。彼が責任者の判官びいきで乗船者に選ばれて戸惑っていると、造船ドック内で爆破未遂が起こり……。
前半のShelterと同じく避難しようとするお話。【M】で登場した元警察ニートがテロリストとなって華麗に復活!たった一人の少女の夢を叶えるために、全人類を余さず根絶やしにしてしまおうという目覚ましい行動力。彼にとってはたった一人でも生き残らせてしまうとMission Failed。危うくマリオ穴行きになりそうなところを助けられました。
それにしてもこの漫画家、モチーフがあるのでしょうか?ビジュアル的には阿良々木暦と鹿田ココノツを足して割ったような感じですが。マイナー作家の性か、テロリストの滅亡しそうにホイホイと感化されてしまう。
お嬢様と浅見さんもネタ元がありそうなんだけど、ピンとこない。なんとなくイメージ近いのはぱら☆いぞのお嬢様ですかね、病田さん弟に興味津々だった御方。まぁ確かに、あの2人は脳内カップリング捗りそうな見た目してますよね。わかるわかる。
関連エピソード【M・U・Z】
Tsuchinoko
社の近くにはツチノコが棲んでいて見つけた人間の願いを叶えてくれるらしいのだが、一向に見つからない。なぜならツチノコを見つけた少女が「誰にも見つからないでくれ」と頼み込んでいたから。なぜなら彼女にとってツチノコ探しは……。
ふんわりゆったりエピソードかと思いきや、一気に本筋に切り込んできました。【J・K】で話題に挙がっていたツチノコは実在して、しかも正体は輪廻を司るウロボロス。なんでも願いを叶えるし、ゆで卵が大好物。
それにしてもエンディングがとても悲しい。要するにこれは解脱というやつですよね。目の前の悲しみから逃れる為に少女は願い、この作品に関わる全ての過去・現在・未来から外れてしまった。どうせ滅び行く世界であれば脱出できれば嬉しい限りなのに、なぜこんなに悲しいのか。
それは読者すらメランコリア世界の住人になってしまったからに他ならず。メランコリアという漫画を開けば、いつでもどこでも誰かがいる。見知った顔が喜怒哀楽を表現している。そんな世界から外れてしまった千里。これから地球が救われようが滅ぼうが、すべての蚊帳の外に追いやられてしまった千里。
もしあなたがこのエンディングを悲しいと感じるのであれば、それだけ『メランコリア』という作品にどっぷりハマっている証でもあるのです。
関連エピソード【J・K・R・W・X・Y】
Utopia
メランコリアは徐々に地球へ接近し、昼でも日が陰る時間が長くなってきた。人々は滅亡を強く意識し、ネット上ではメランコリア衝突後も生き延びられるという"4つのユートピア"の噂が騒がれていた。とあるマンションに住む2人はユートピアを目指し……。
これまでのふざけた雰囲気とは一変して、世界が滅亡へ近付くのを強く意識させられるストーリー。所々にシュールなギャグを挟んではいるものの、根本にあるのは生き残った人々の絶望と諦観です。むしろこれくらいギャグを挟まないと間が持たない。
【N】で話題に上がっていた海底は安全という話、あながち唯の妄言でもないようですね。所詮ネットの噂とも言えますが、ブレフスキュ島と西日暮里シェルターが正確な情報であった以上は信憑性が高まりました。
無人の高速道路を徒歩で移動するシーンは寂寞感が出ていて非常に良かった。ゲームで例えるとラスオブアスやニーアオートマタのような、人間が滅んで文明の残滓だけがそこに存在しているような。
【S】の宇宙船計画はいつの間にか頓挫しシェルターへ転用されていました。何があったんでしょう、お嬢様まで元警察元ニートテロリストに感化されてしまったとか?
そしてラストはコージが言った通り「結局我が家が一番」で収まりました。他の避難希望者達も同じ結論に至ったようで、「地球は人類の揺り籠」だったということでしょうか。
もっとロマンチックに言えば「愛する人がいる場所が自分の在り処」なのでしょう。冒頭で行き倒れていたチェス王子と森の魔女のように。
関連エピソード【B・D・E・L・N・S・Z】
Vocation
メランコリアは遂に地球衝突の瞬間を迎えていた。なんとか彗星を押し返そうとするヒーローの努力も虚しく、メランコリアは地上を押し潰す。その姿を見届けた宇宙人は何度目かの時間巻き戻しを実行する。彼らの目的は……。
猫じゃん!【H】の感想で「猫っぽいデザインだなぁ」なんて書きましたが、その実彼らは猫そのものでした。ヤコブソン機関のトップはキャットタワーで寛いでいるし別の隊員は耳欠けだし。スフィンクスはいかにも研究職向きですよね、毛が落ちないので。
本題。猫型宇宙人ことヤコブソン機関フレーメン部隊は未成熟な地球人を保護する為の特務を担っています。彼らは進んだ技術力をもっていますが全能ではない様子。何か優れたことができるのと、それをアンダーコントロールすることの間には大きな隔たりがあります。
今回のストーリーは他のエピソードと大きく異なる点があります。それは主人公が地球外の存在ということ。これまでのメランコリアは個々のキャラクターがバラバラに行動する様子を傍観者として眺めていましたが、ここでは傍観者自身の物語というメタ的な構造になっています。
ということで1度目に読んだ時は単なる幕間劇だと思っていたのですが、ラストまで読むと評価が変わりました。いつの間にか保護者で傍観者だった彼らすら物語に組み込まれていたのです。その証として重要な伏線がさらりと描かれていました。これに気付けなかったのは悔しいなぁ。
関連エピソード【A・H・O・W・Y・Z】
Wriggler
病院のベッドに横たわる意識不明の少女、これは彼女の夢の中の物語。目覚めぬ夢という名の井戸の底で青空を見上げる彼女に、輪廻の神ウロボロスが語りかける。彼女がウロボロスに託す願いとは……。
ついに物語の本筋が動いてきました。地球滅亡を巡る一連の騒動はウロボロスの半身とサトミ(【A】の少女)によって引き起こされたものだったのです。【A】の時点ではサトミも受け身側だったので、まさかこのような形で再登場するとは思いませんでした。
しかも【C】の強か少女の妹でもあります。確かに読み返すと「そろそろ12才になる(=現11才)」とは言っていましたが、ここで繋がってくるとは……。
基本的にここまでの本編内で引き起こされた超常現象は”滅亡コンビ”のものだとわかりました(残りは宇宙人とツチノコ様とetc)。【H】の彗星や【Q】の吹雪、【R】の猛暑(【F】の竜巻も含まれる?)。
あれ、意外と少ない……?最後まで読んだ後に読み返してみると、滅亡コンビによる干渉って大規模かつ派手なものばかりで、局地的なアレコレって結局説明つかないものばかりでした。
そんなこんなで大騒ぎをやんちゃ騒ぎをしている所へ辿り着いたのがツチノコ様。正の半身として負の半身を止めようとするが力及ばず、地球滅亡→宇宙人が時間巻き戻し→美しい輪廻を眺めながら振り出しへ戻る。
次の【X】ではツチノコ様にも”前世”の記憶がある事が伺えますが、ここに至るまでは特にそんな素振りもみせていないんですよね。世界のループに気付いていながら傍観者でいたけど、原因が負の半身だと気付いて漸く重い腰を上げたのでしょうか。
最後に。輪廻は巡りサトミが車に轢かれるところからやり直し。ここが全ての起点になるのですね。となると【C】が発生した時点では既にサトミは事故に遭っていた?どうにもこの辺りの時系列は曖昧です。
関連エピソード【A・F・H・K・M・T・V・Y
Xroad
地球滅亡がウロボロスによるものだと分かりツチノコが行動を開始する。これまで人目を避けてきたがその理由もなくなり、森を彷徨う自殺志願者とニートの前に姿を現す。2人の願いを叶えた事をきっかけに世界は少しずつ変わっていき……。
ツチノコ様の反撃編。今更どれだけ行動しても【T】の千里は帰ってこないというのがちょっと悲しいポイント、ツチノコ様も少々メランコリーなご様子です。映画『バタフライ・エフェクト』やゲーム『シュタインズ・ゲート』のように少しずつ過去(未来?)を改変することで物語を修正していく。
これまでは負の半身の思うままにされてきましたが正の半身にも同等の力が備わっているので、やる気さえあれば立ち向かうことはできます。しかし直接メランコリアに手を下すことはできないので、あくまで間接的に。
なぜツチノコが直接メランコリアの衝突、もとい存在に干渉できないのか。考えられる要因は2つ。
一つ目は自身の望みをそのまま具現化することはできないという可能性。ウロボロスが「サトミの願いを叶える」という間接手段をとっているように、ツチノコも「誰かの願いを叶える」という条件でしか能力を発揮できないのかもしれません。
二つ目はツチノコには能力を発動させる為の「自己(エゴ)」が足りないという可能性。ツチノコがこれまで何度も世界の滅亡を見送ってきたとすると、ウロボロスの関与が明らかにならない限りはツチノコは「世界なんてどうでもいい」と思っていたのではないでしょうか。ウロボロスもまた「美しい輪廻を見続けたい」という欲求こそあれ、それを実現するためのマナというかエネルギーというか、そういった”強い願望”を持ち合わせていないのかもしれません。
いずれにせよ、ツチノコもウロボロスも直接的に世界に関与することはできないようです。まぁそれが可能であれば、途端に物語は「デウス・エクス・マキナ」となって魅力を失ってしまうのですが。
関連エピソード【A・B・C・D・G・J・K・O・M・N・P・Q・W・X・Y・Z】
Yoke
彗星メランコリアにキッドナップが正面からぶつかっていくが力及ばず体力が尽きかける。その時もう一人のヒーローが現れ窮地を救う。かに思えたが、メランコリアから伸びた触手がキッドナップの左胸を貫き……。
決着ゥゥ―――――ッ!!勝ったッ!メランコリア 完!大げさかもしれんが世界は救われたんだッ!
というわけで大げさでもなんでもなく世界は救われました。まだ完ではありませんが。
メランコリア第二形態を見て地獄星レミナが思い浮かんだ方はいらっしゃいますか?!おられましたら至急こちらへお越しください!
秘術や人外、宇宙人からカミサマまで様々な怪異が跳梁跋扈した本作品ですが、最後に世界を救ったのは人間の心でした。妹には健やかに生きてほしいと願う姉の想いと、彼女に恋をした殺し屋が繋いだバトン。それらを受けて幼いサトミは強く在ろうと決意するのでした。
基本的にはオカルトしかないんだけど、最後にこうして地に足付いたエンディングを迎えるのが大好きです。ラストバトルは逆シャアの隕石押し返しみたいだったし。
美しい輪廻を破られたウロボロスは案外あっさり諦めました。幾度となく輪廻の輪を眺めてそれなりに満足したのか、いつかツチノコに破られることを望んでいたのか。この辺りでグダグダと説明をせず、あっさりと締めてしまうのも実に道満先生らしい。
関連エピソード【A・C・K・T・V・W・X・Y・Z】
Zoo hypothesis
メランコリアが地球を離れていく。多くの人々がそれぞれの思いを抱きながら滅亡の回避を噛み締める。そんな中、早速次の行動へ移ろうとする一つの影があった……。
最終回だからエピローグ?とんでもない、これは『メランコリア』のプロローグです。
メランコリア回避によって救われた命、失われた命、喜び、悲しみ、そして憂鬱。世界に溢れる様々な出来事や想いを風化させまいと、最後に行動を起こしたのは宇宙人でした。
これまでずっと地球を保護する傍観者であった彼は、宇宙船と相棒を失った事で、ついにこの世界の住人へと立ち位置を変えました。彼の目的は二つ。
1つは自分達が観測し、干渉し、完走した物語の記録を残すこと。その手段は地球の文化の中でも特にお気に入りである”漫画”。それは彼らが江戸時代に干渉した事がきっかけで発展したという経緯がある。
もう1つはサトミの魂を救い出すこと。事故に遭い意識を失っている間に、流されるままに世界滅亡の根源となり、自らの意志で世界を救った少女。誰にも知られずひっそりと世を去る少女を悼み、せめて少しでも救済を施してあげたい。
彼が選んだ手段はサトミが事故に遭う瞬間に立ち会い、彼女の精神世界へお供するというもの。その際に持ち込んだのは星形の飾りが付いた杖。製作者は「魂を切り離し圧縮した次元断層に……」と説明していました。
<ここから推測、もとい妄想>
ツチノコ様が千里を輪廻から解脱させたのと同様の能力を持っているのではないかと推測できます。話は【A】に戻ります。崩壊した世界と成長したサトミ、取り残された部屋。この”サトミ”はウロボロスに出逢わず井戸の底で10年を過ごした果ての姿なのではないでしょうか。現実世界では事故で昏睡したまま10年間が経過し、遂に生命活動が終わろうとしている状態。
つまりウロボロスによる干渉が無いサトミは順当に肉体の死が訪れ、それが精神世界にとっては滅亡として認識されている状態。奇しくもウロボロスの干渉と宇宙人の時間巻き戻しがサトミの生存を支えていたのです。
そこに現れたのが科学の力で強制解脱させるマジカルロッドを携えた宇宙人。彼はタイムリープが無く死を待つのみのサトミの魂を別の次元へ移すことで、彼女を救済しようと考えました。こうして天国の扉をくぐったサトミと宇宙人はメランコリア世界から解脱し、新たな人生を歩むことになったのです。
「ワガハイは猫である 名前はモーアル」
<妄想おわり>
関連エピソード【A・D・E・H・I・K・O・S・U・V・X・Y】
終わりに
ついに完結しました!道満晴明という作家のこれまでの集大成のような作品に仕上がりました。26のエピソードを1つのストーリーとして纏め上げる手腕はお見事と言う他なし!
個人的に好きなエピソードは【B・C・H・K】や【R・S・X】あたりです。あなたの好きなエピソード・シーンはどこでしょうか?
尺の都合上削った指摘箇所もありますが、私個人では拾いきれていないネタがまだまだ山ほどあると思います。「ここってもしかして……?」という点があったら教えてください。この作品はもっと深く読み込むことができるはず!
最後に。こうしてメランコリアは悲喜こもごも様々な物語を生み出しつつも幕を閉じました。しかしあなたがページをめくれば何度でも輪廻は巡り、魅力的なキャラクターたちが踊り狂います。是非あなたも、この美しく愛おしい憂鬱に飲み込まれてください。
それでは次回も、なにとぞよしなに