前回は黒咲練導先生の作品全般に対する思いを綴りました。
今回からは各作品の紹介と感想を書き殴っていきます。
初めに
さて、今回紹介するのは黒咲先生が雑誌「楽園」にて発表した短編をまとめた「C-(シーマイナー)」です。
(前回記事の最後で「お勧めは放課後プレイの1とHH1です!」と高らかに宣言したのにもかかわらず、いきなり濃密な短編集の紹介です。ごめんなさい、でもこれが一番好きなんです・・・。)
本作品に収録されている作品の多くは”依存恋愛”がテーマになっています。しかしその描かれ方は様々で、一筋縄ではいかないものばかりです。
前置きが長くなりましたが、各話の紹介へと参りましょう。
(黒咲先生作品は登場キャラは殆ど名前が無いので”男””女”といった書き方になります。)
各話紹介
kissing number problem
書店で働く男女がお付き合いする話。
その男は好きになり、色々と知りたくなり、色々としたくなる。
その女は受け止める。しかし受け入れてはくれない。
物語は男が告白する場面から始まります。女は「男女の交わりをしない事」を条件にその告白を受けたのだが……。
単行本の一番最初の話で、黒咲先生が「気になる」程度だった私の心を一発でぶち抜いてくれました。
この話の見どころは登場人物の感情表現です。男は喜怒哀楽が顔に表れやすく、汗をかいたり顔を赤らめたりと表情豊かです。一方、女は常に無表情で目線もダウナー、汗や涙といったオプションもすべてカット!
その為、パッと見では物語が淡々と進んでいきます。しかしよ~く注意してみると、女の指先の動きや目線のちょっとした変化などから驚くほどキャラクターの心情が溢れ出しています。
是非、非言語的かつ歪でプリミティブな恋愛模様をご堪能ください。
テオブロミン
お金を払って抱かれる女とお金を払ってでも抱きたい男の話。
その男は抱いている内に、その女を好きになってしまう。
その女は抱かれている内に、その男から離れたくなってしまう。
いわゆる一般的な援助交際とは逆で女がお金を払って男に抱かれているのだが、男が女に告白したのをきっかけに女とは音信不通になってしまう・・・。
男ってのは単純なもので最初はビジネスライクでいたつもりでも、交わりが深くなる内に勝手に情愛が増してしまうものなんですね。普通の物語なら女の方も感情が高まり心身ともに結ばれる。と思っていた私の想像は容易く裏切られました。
恋愛に依存しながらも、恋愛に依存する事そのものを恐れてしまう心理をご堪能ください。
隷属性クラブ
男と女がアイスと足を舐める話。
その男は舐めたい、舐めさせられたい。
その女は舐められたい、舐めさせられられたい。
この話は個人的にはかなりシンプルだと感じており、上に書いた通りです。
ピンク髪でメガネで関西弁で、そんなセクシャルシンボルの塊のような美少女とイロイロ楽しい事をしてみたい。
果たして依存しているのはどちらなのか、それは人へなのか行為へなのか。
被嗜虐深度
男と女が撮ったり録られたりする話。
その男は撮りたかった。
その女は撮られている自分を録りたかった。
少年は近くに住む蠱惑的なおば…おねえさんをカメラで撮らせてもらっていた。今日もいつもと同じようにファインダーを覗いていたのだが・・・。
大人の女性の色気を感じられるお話。いつだって青少年が憧れる大人の女性というものは、豊満な肢体を落ち着きと気品、知性で覆っているものです。しかしそれはあくまで青少年から見た外側の理解であり、内側には正反対な嗜好と欲望が隠れているのでした。
少年は女性にある種の偶像崇拝を感じ、それを写真として残すことに喜びを感じていた。そんな彼を彼女は捕食する。これから捕食されてしまう喜びと捕食され偶像が壊れてしまった悲しみ。性春ですねぇ・・・。
on/off
男と女がお互いの愛情を確かめあう話?
その男は愛する人と強く抱きしめあった。その身体から伝わる温もりは混ざり合う、その心は・・・?
この単行本の中では間違いなく、一番ピュアな物語です。なのに、なのに・・・!
僕の性癖の幅を広げてくれた作品です、本当にありがとうございます。
よくこの手のカップルは、そのハードルの高さから完璧ツーカーな相思相愛と思われがちですが、他のカップルと同じで心に秘めた想いはそれぞれですよね。
この話を気に入ったのであれば放課後プレイやユエラオを読むことをお勧めします。
かってに楽園ちゃん(仮)/ それゆけ楽園ちゃん(仮)
癒しパート。
文字通り、この単行本内での癒しパートです。ここまでの作品の感想を文字に起こしてみたところ、改めて実感するのが「複雑で濃密で重い!」ということです。
ザッハトルテとようかんを交互に詰め込みまくったような読後感の波に飲み込まれ、そろそろ一息つきたい!と思ってきたころにいい具合に挿話されています。
青春ってさ、こういうものだよ。いつだって思い出すのは、手が届かなかったことばかり。
右の二人
女が男のサッカーの試合を見に行く話。
その男は、かっこいい姿を見せたい。
その女は、かっこいい姿なら見てみたい。
男は同級生の女を自分のサッカー試合の観戦に誘ったのだが女はあまり乗り気ではなく・・・。
青春ってさ、こういうものだよ!・・・こういうものかな・・・?女友達の大事と男友達への好意って全くの別物なんですよね。
この話も女の目の表情が素晴らしいと感じました。元々は真っ直ぐで裏表のないサッパリした彼女が、わざわざ話をはぐらかしてしまう理由とは心情とは。
余談ですがこの話のタイトル、完全に単行本向けなんですよね。本誌掲載時からこのタイトルだったのだろうか・・・?
C-
男と女が素直になれない話。
その男は、自分の想いを相手に伝えるのが苦手。
その女は、自分の想いを正直に伝えるのが苦手。
気性の荒いモデルと無口なマネージャーが些細な事から口論を始めて・・・。
単行本を締めくくり、かつメインタイトルにもなっている物語。
他の作品と比べるとシンプルな印象の作品。精神的にぐぬっとえぐり込むような作品が多い中、本作はビジュアル描写が強い(=エロい)仕上がりになっています。
比較的ノーマル寄りなこの話が最後に来たことは、巻頭から迷い込んだ長い性癖の回り道に一筋の光を差し込んでくれます。
ついにこの濃厚な黒咲迷路を脱したのだ!数々の歪な性癖という手土産を片手に!
終わりに
というわけで、思いつくままに書き殴ってきた作品紹介もここで一区切りとなります。他の人のレビューって結構サクサク読めてしまうけど、自分で書くとなるとめっちゃ体力使いますね。しんどい!
単行本全体を纏めると、独特なタッチの絵柄に過剰とも思える描写がトッピングされ、そんなモチモチの生地でドロドロの心情を包み込んだ素晴らしくエネルギッシュな作品となっています。
元々読み手を選ぶ傾向の強い黒咲先生の単行本の中でも、一層その傾向が強い本作ですが、選ばれ(てしまっ)た一部の人々には強烈な読後感を残すことでしょう。
一風変わった恋愛コミックが読みたい方、今自分が感じている”恋愛”がなんなのかわからなくなっている方、マニアックでフェティッシュな描写を求めている方。
是非ともご一読ください。
初めての紹介レビューが3,000文字を越え、初っ端から頑張り過ぎた感があります。
ダレと飽きが最高潮に達するまではのんびりと続けたいので、次の投稿はどうしようかな。
それでは本日はこれにて。次回もなにとぞよしなに。