ここ最近のAmazonで一番購入しているのが「マンガで読破シリーズ」です。
このシリーズは所謂名著を漫画にしてわかりやすくしたものです。とはいえ基本的には原作の内容を薄くした要約版である場合が多く、単体での満足度はそれほど高くありません。
しかし今回紹介する君主論は、原作の副読本として見ると非常に優秀です。現在行われている10円セールを機に、様々な名著にチャレンジしてみましょう。
君主論読み比べ
君主論とは
まず最初に、そもそも『君主論』とはどのような本なのかについて。
著者であるニッコロ・マキャベリは16世紀イタリアの政治家。当時は地方豪族や宗教勢力、海外国家などが入り乱れる紛争状態が長く続いていました。そんな時代背景の中で、君主(リーダー)がどのような心構えを持って領土経営に取り組むかという指針を示そうとしたのが本書です。特徴として挙げられるのは冷徹とも合理的ともとれる「目的の為には手段を選ばない」現実主義的な判断を尊重すること。
しかし本書は「とある領主への私的な献上品として書き上げられた」という経緯と、ともすれば「独裁的な支配者を礼賛している」と捉えられかねない内容から知識人から悪書として蔑まれていました。
ようやく肯定的に認知され始めたのは18世紀以降。さらに時が進むとビジネスシーンにおいてリベラルアーツが重視され、古典的な哲学書が多く読まれるように。その中の一冊として読まれ始めた君主論は、今やビジネス哲学書の入門編と言われるほど確固たる地位を築くに至りました。
最大の敵は“時代”
さて。そんなビジネスマン必携本となった君主論ですが、世間に出始めた当時は批判的な意見が多数を占めていました。
その一番の要因は「時代背景に適さなかったから」。
中世から近代にかけて世界各地で共和制が広がり、旧時代的な専制君主や領主といった硬性な階級制度は薄れつつありました。そんな民主主義隆盛の時代の中で出版された君主論は、まさに時代の敵を褒め称えるような書物として受け止められたのです。
また当時世俗界隈にまで大きな影響力を及ぼすようになっていたカトリックが本書を危険視し「禁書目録」に加えられたため、一般大衆には読むことすら許されていませんでした。
それからしばらくの間、君主論は悪書として忌避されてきました。しかし競争原理を至上とする資本主義が民主主義を圧倒するようになってから、本書は再評価され始めたのです。
読み比べて
それでは本題。実際に読み比べてみて感じたのは「それぞれ内容や目指す方向性が違う」という事です。
中公文庫版は所々に注釈があるものの、基本的には原文を和訳した本です。その為当然ながら、原文序章から始まり本文を経て、解説が入って締めくくりとなります。本来文庫のあるべき姿をそのままに踏襲しているので間違いではないのですが、注意したいのは「現代の私たちが文字通りに読んでも理解し難い」という点。
いま私たちが生きる日本社会は比較的平和で民主主義が台頭しています。つまり君主論が想定している状況とは真逆の状態にあるのです。それを考慮せずに単なる戦争政治学の書物として読み進めてもいまいちピンときません。
そこで便利なのがマンガで読破版の君主論。特徴は「マキャベリの生い立ちや執筆当時の時代背景の紹介」にページの多くを割いていること。
マキャベリが“理想的な君主”として挙げるチェーザレ・ボルジアの登場シーンが多く、最早彼の伝記なのではと思える程。もちろん文庫版にも当時の状況の解説はありますが、この点に関して言えばマンガで読破版の方が読みやすいと感じました。
終わりに
以上から、君主論は「マンガで読破版」を読んで時代背景を把握した上で「文庫版」を読むのがオススメです。
また内容とは異なるのですが。漫画の方が文章より短時間で読めるというのも重要なポイント。というのも忙しい現代人にとって、普段読み慣れない内容の文庫を読むのはそれなりに時間を要します。それだけの時間をかけて自分に合わない本を読むと勿体無いと感じてしまいます(自分に合わない本すら経験と思える程の読書家でなければ)。
であれば。短時間で読みやすい漫画を先に読み、その上でしっかりと読みたいと思うのであれば文庫を読めば良いのです。巷では「マンガで読破版は内容が薄い」と言われることもあります。確かに原文と比べると圧倒的に情報量は少ないのは否定できません。しかし物は使い用で、ただの下位互換とするかスッキリした要約版と考えるかはその人次第。
せっかくAmazonが10円セールという暴挙に挑んでいるのですから、どんどん利用してみましょう。これまで手を出せなかった名著を体験する格好の機会になるはずです。
それでは次回も、なにとぞよしなに